本ページでは、固定効果と変量効果の概要についてまとめたい。厳密なモデルの詳細や数式については、参考書等を参照されたい。
これらは、パネルデータを用いた実証分析の手法である。
パネルデータ
パネルデータとは、個人や地域、企業のデータを複数時点で観測したものである。クロスセクションデータと時系列データを組み合わせたものということもできる。
パネルデータの最大の利点は「情報量の多さ」である。サンプル数100の標本について、10年分のデータが取れるとしたら、100×10=1000のデータを得られることになる。
パネルデータを使うことで、観測対象について、施策の前後の変化を検証することが可能となる。パネルデータを用いた分析に「差の差の分析」などがある。
また、後述するように、個別効果を制御することが可能となる。
固定効果
「時間を通じて一定な個人特有の効果」を個別効果という。例えば、生まれ持った個人の能力や才能は、学力や年収などの諸要素に影響を与え得るが、具体的なデータとして計測することは困難である。
この個別効果はデータとして観測不能なので、回帰分析の中で説明変数として用いることはできない。そうすると、個別効果は「誤差項」に含まれるということになる。
誤差項が説明変数と相関しているとすると、正しく推定ができなくなってしまう。
例えば年収(被説明変数)と学歴(説明変数)の関係を推定するときに、誤差項に含まれる個人の能力が学歴と相関するということは容易に考えられる(個人の能力が高い方が学歴が高くなるという傾向)。
パネルデータであれば、この「個別効果」を制御することが可能である。やり方の一つとして、1期前のデータとの階差をとるという方法がある。個別効果は時間を通じて一定とされているので、階差をとることで個別効果を除去できることが期待される。
もう一つの方法は、平均差分法と呼ばれ、説明変数、被説明変数の時間平均を推定モデルから差し引くことで、個別効果を除去する方法である。
階差分法や平均差分法により個別効果を除去する推定方法を固定効果モデルという。
変量効果
個別効果が説明変数と相関している場合、それは固定効果と呼ばれ、固定効果モデルによって推定することが有効であることを確認した。変量効果も、時間を通じて変化しない個別効果であるが、固定効果との違いは、説明変数と相関していないという点である。説明変数と相関していない個別効果を変量効果と呼んでいる。
時間を通じて変化しない個別効果が固定効果なのか変量効果なのか判別するには、ハウスマン検定と呼ばれる検定手法により確かめることができる。固定効果モデルと変量効果モデルそれぞれで回帰分析をしたときの推定値の差に着目して、その差が大きければ、時間を通じて変化しない個別の効果は説明変数と相関している、つまり固定効果であると結論付けることができる。
(参考):
田中隆一(2019)「計量経済学の第一歩」有斐閣ストゥデイア