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外為法改正に見る経済安全保障と経済成長のジレンマ

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「経済安全保障」の重要性が近年強調されつつある。経済安全保障とは広範な概念であるが、民間企業の視点に立てば、技術や情報が外国に流出し、戦争行為等に利用されることを防ぐこと、と言うことができるだろう。

 

2019年、外為法(外国為替および外国貿易法)の改正が波紋を呼んだ。外為法とは、海外との為替取引や輸出入を管理する法律であり、海外への経済制裁措置のほか、安全保障上重要な日本企業への海外からの出資を規制している。外資の出資規制について、海外に買収されると技術や情報の流出等により安全保障上懸念があると考えられる上場企業を対象に、海外投資家に対して出資比率が10%以上になる際には事前届出を求め、従わなかった場合には罰則の対象とした。

 

2019年の改正によって、この10%の基準を1%に引き下げた。海外金融機関等について、経営に関与しないことなどを条件に事前届け出を免除する規定も設けられているが、海外投資家の間では大きな波紋を呼んだ。届出の対象となる企業のリストも公表されたが、その基準が曖昧との批判も巻き起こった。

 

この改正の背景には、年々影響力を強める中国をはじめ、経済安全保障上の懸念が高まっていることにある。武器やサイバーセキュリティ関連、エネルギーなど、日本の安全保障上基盤となるような産業について、海外投資家によって買収されることにより、技術や情報が流出したり、日本の国防を損なう形で企業の経営方針が変更されることを防ぐという問題意識がある。

 

ここで、経済安全保障の確保と、資金の呼び込みを通じた企業の成長促進との間に、ジレンマが生じることになる。外資からの出資を制限することで、日本企業の技術や情報は守られるかもしれないが、日本を魅力的な投資対象と外国人投資家が思わなくなれば、日本にお金は集まらなくなり、日本企業の資金調達は難しくなっていく。その結果、日本においてビジネスが成長しなくなれば、経済に大きな悪影響を与えることになる。成長著しい海外のマナーをうまく取り込むことは、経済政策上重要な戦略でもある。

 

グローバルな資金移動が前提となる金融の世界において、各国企業の技術や情報を流出させないという「経済安全保障」の問題は、舵取りの難しい課題であると言うことができるだろう。出資規制を強化するにしても、自由な資本移動という国際金融の大前提は崩さないよう、その基準を明確にすることが重要であると思われる。

 

 

(参考):

外為法関係・為替政策 : 財務省

 

東京海上ディアール株式会社(2021)『リスクマネジメント最前線 経済安全保障を考慮したガバナンス・リスクマネジメント態勢の構築』

 

産経新聞外為法、経済安保で問われる実効性 東芝など 事前届け出でも外資拡大』2021年6月20日