コストプッシュインフレ下の利上げについて
2022年、世界各国でインフレが深刻な状況となっている。
このインフレの原因、そして各国のとり得る政策やその効果などについて考えてみたい。
インフレの要因
インフレが起こる要因は需要要因と供給要因に大別される。前者は、経済活動が活発化し、人々の需要が大きくなることで、価格が上昇する場合。後者は、原材料費の高騰や、供給制約等により商品を製造するコストが上がることで価格が上昇する場合である。
需要の増大により起こるインフレをデマンドプルインフレ、供給制約等によるコスト増大により起こるインフレをコストプッシュインフレという。
インフレの抑制
デマンドプルインフレの場合、インフレの抑制のために有効なのは中央銀行による金融引き締め(政策金利を上げること)である。政策金利を上げると、銀行が企業に貸し出す際の金利も上昇し、企業の資金調達のコストが高まるため、経済活動がスローダウンする(投資の減少など)。こうして需要が減少することで、インフレが抑制される。経済活動が加熱しているためにインフレが生じているのだから、経済活動にブレーキをかけるイメージである。
コストプッシュインフレの場合、政府の政策による供給体制の拡大や、国策での資源調達等を通じて製造コストを下げることで、インフレを抑制することができる。コストプッシュインフレの下でも、利上げにより需要を下げることによってインフレを抑えることはできるかもしれないが、このケースにおいてはもともと景気が良く経済活動が活発であるとは必ずしも言えないので、利上げによる需要の低下は景気後退(リセッション)を引き起こす可能性がある。
2022年のインフレ状況
2022年におけるインフレの要因については、以下の参考文献が指摘するように、コロナ禍の物流や製造における制約、ロシアのウクライナ侵略による資源コストの増大、といった、供給サイドの要因が大きいと考えることができる(コストプッシュインフレ)。ただし、欧米では、コロナ対策としての大規模な財政政策により、需要も高まっていたとの指摘もある。よって、デマンドプルインフレの側面も考えられる。
こうした中、米国のFRBは0.75%の利上げを6月中旬に発表した。上記の議論の通り、コストプッシュの側面がある中での利上げはリセッションを誘発する恐れがあるが、そのリスクをとった形になる。
日本の状況はどうか。日本でも(アメリカほどではないが)インフレが生じている。しかしその要因は基本的に資源価格の高騰や供給制約による製造費の上昇といった供給サイドの問題であり、需要が増えている訳ではないと考えられる。日銀は大規模な金融緩和を維持し金利を低く抑えているが、こうした状況下でもし利上げを行った場合、(需要をさらに下げることで)仮にインフレを抑えることに成功したとしても、リセッションを引き起こす可能性は相応に高いと見られる。
さらに金利の上昇は、膨らみに膨らんだ日本国債の利払費上昇という側面もあり、財政の持続可能性という観点から、かなり政治的な問題が生じそうだ。
ただし、日銀が利上げをしないとなると、日米の金利差はますます拡大していく。そうすると、世界の投資家は利息を多く取れる通貨に投資したいと考えるのが自然であるから、円売り・ドル買いの流れは加速していき、円安が続くと見られる。
円安は輸出中心の日本企業にとっては恩恵だが、資源や食品の原材料の多くを輸入に頼る日本においては、輸入物価の上昇は相応の痛手である。円安要因によるさらなるインフレも想定する必要がある。
世界規模のインフレの中で、日米のマクロ環境の差異により、今後ますます日本が難しい舵取りを迫られる可能性がある。
(参考):
日本経済がインフレ転換した理由 ~供給サイドからみた構造変化~ | 熊野 英生 | 第一生命経済研究所