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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

VARモデルにおけるインパルス応答関数について

本ページでは、VARモデルにおけるインパルス応答関数とは何かについてまとめたい。VARモデルの基本的な概要については、以下のページでまとめている。

hongoh.hatenablog.com

インパルス応答関数は、一言でいえば、ある変数に生じたショックが、時間を通じて他の変数にどのように影響するかを分析するツールである。

 

ある変数へのショック

まず、以下のVARモデルを考える。

行列を用いて表現すると以下のようになる。

ここで、変数yへのショックが生じたとき、xの値にはどのような影響が生じるのかを考えたい。あくまでショックはyにのみ生じると仮定するので、xには変化を加えない。

 

具体的には、撹乱項εytの(1単位の)増加をもって、yへショックが加わったと考えることができる。しかしながら、εytとεxtの間の相関が0でない限り、yへのショックと同時にxへのショックも加わってしまうことになる(つまりεxtも変動してしまう)。この相関を考慮せずに、単にεytの変化が各変数に与える影響を分析すると、正しく効果を測定することができない可能性がある。

 

コレスキー分解

上記の問題の解決方法の1つとしてコレスキー分解がある。コレスキー分解とは、正定値対称行列(全ての対角要素が正で、対称な行列)を下三角行列(対角成分より上側の成分が全て0の行列)とその転置の積に分解する方法である。行列の基本的な計算等については以下のページ参照。

hongoh.hatenablog.com

具体的には、行列Aに対して、

A=PP'

というように分解するのがコレスキー分解である。

 

まず、上記のVARモデルにおいて、共分散行列Σのコレスキー分解を行う。

Σ=PP'

ここで、Pは以下のように書くことができる。

なぜこんなことをする必要があるのか?コレスキー分解によって求めたPの逆行列を元のモデルの撹乱項ベクトルεtにかけて、

となるようにutを定義する。ここで、utに着目してみると、

となる(※実際にΣを展開して計算結果がDになることを確認してみてください)。上記の通りDは対角行列であり、対角要素以外の共分散は0になる。従ってutは、互いに無相関な撹乱項のベクトルということができる。これを直交化撹乱項という。

 

以上の流れを整理すると、コレスキー分解によって、互いに無相関な撹乱項のベクトルを導き出すことができた。そして、例えばyのショックがxにどう影響を与えるかを分析したければ、uytを変化させれば良いことになる。また、改めてコレスキー分解の式を眺めてみると、utにD^-0.5が掛けられていることが分かる。これはuytをその標準偏差で割っていることを意味する。よって、D^-0.5*ut=vtとすると、vytの1単位の変化はuytの1標準偏差の変化と等しくなる。

 

インパルス応答関数

例えばvytあるいはuytを増加させたとすると、t期のyは増加する。上記のVARモデルを見ると、t期のyの増加は、t+1期のyの増加とともに、t+1期のxも増加させる(α21>0を仮定)。同様に、t+2期、t+3期のx、yにも影響を与えることとなる(期が先になればなるほどt期のショックの影響は小さくなる)。このようにして、インパルス応答関数は求められる。統計ソフト等で、ある変数におけるショックによるインパルス応答関数を求め、グラフ化することができる。

 

(参考):

沖本竜義(2010)「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」朝倉書店