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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

マートンモデルを用いたデフォルト確率の推定について

本ページでは、マートンモデルを用いたデフォルト確率の推定についてまとめたい。

このモデルでは、デフォルトは企業の資産価値が債務額を下回った場合に発生するという前提に基づいている。デフォルト確率は、ブラック・ショールズ・マートンの公式を使って計算することができる。

 

まず、企業価値Vについて、以下の確率微分方程式が成り立つとする。

ここで、μは期待収益率、σはボラティリティである。dWはブラウン運動の増分である。

W=W(t)がブラウン運動であるとは、以下の2つを満たすことである。

(1)W(0)=0であり、

・任意の0<t1<t2<...<tnに対して W(t1)、W(t2)-W(t1)、...、W(tn)-W(tn-1)

は独立

・任意のs,t>0に対して

W(t+s)-W(t)の分布はtに依存しない

(2)任意のt>0に対して、W(t)は平均0、分散σ^2tの正規分布に従う。

 

 

(1)の式に戻ると、企業価値Vは幾何ブラウン運動に従う確率過程と表現することができる。初項はドリフト項と呼ばれ確定的な方向性を示し、第二項は不安定な動きを示す。

 

(1)式は、伊藤の公式を用いることで以下の様に書き表すことができる。

そして、この方程式の解は以下になる。

ただし、V0は初期値である。

以上の部分の導出については以下のページを参照。

hongoh.hatenablog.com

 

株式をE、負債をDとすると、企業のバランスシートは

A=E+D

である。負債は一種類の割引債のみで構成され、T期に償還を迎えるとする。企業がデフォルトする場合、償還期限であるT期にデフォルトが発生する。上述の通り、企業価値が負債額を下回る場合にデフォルトすると仮定する。このような状況化で、T期における株式、負債の価値は以下のように表現できる。

よって、株式を保有することは、企業価値を原資産、負債額を行使価格とするヨーロピアコールオプションのロングポジションを持っていることと考えることができる。同様に、負債は企業価値を原資産、負債額を行使価格とするヨーロピアプットオプションのショートポジションであるとみなすことができる。そして、企業価値Vはブラックショールズモデルにおける危険資産を表現する確率微分方程式と同じ形をしているため、Eはブラックショールズの公式を用いて表すことができる。

ただし、dは

であり、Φは標準正規分布関数である。

 

デフォルト確率は、(3)式より、

となる。

 

(出典):

中川秀敏(2008)「信用リスク・モデルの観望とその新展開-トップダウン・アプローチによるデフォルトの依存関係のモデル化-」現代ファイナンスNo.23

石村直之(2014)「確率微分方程式入門 ―数理ファイナンスへの応用― (数学のかんどころ 26)」共立出版