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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

市場はどこまで完全か?ーマネタリスト、ニューケインジアンー

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20世紀前半、ケインズは財・サービスに対する需要、つまり「有効需要」を喚起することこそが、一国の総生産量を増やしたり、失業対策を行う上で有効だと考えた。いわゆる「ケインズ派」と呼ばれる経済理論である。

 

ケインズ主義的政策は、1960年代までの欧米諸国および日本において大きな影響を与えた。しかし、1970年代、原油価格の高騰などにより、物価の上昇と不況が同時に訪れるスタグフレーションが起こった。これはケインズ主義的政策では太刀打ちできない事態を生じさせたのである。

 

ケインジアンたちは失業とインフレ率に負の相関があるという「フィリップス曲線」を想定した。つまり、不況で失業率が高い時にはインフレ率が低いと考えられていたのである。よって、需要の喚起(拡張的な財政政策など)からくる一定のインフレは許容する立場をとっていた。

 

しかし、スタグフレーションによって失業率もインフレ率も高いという状況では、こうしたケインズ的な政策を打つことができない。そこで、ケインズ主義に代わる新たな政策方針が経済学者たちによって打ち出された。

 

マネタリスト

自由な市場経済を信奉するシカゴ学派の中心的人物であるミルトン・フリードマンによって唱えられた。彼によれば、短期的には貨幣供給増加は実物経済に影響を与えるが、長期的には物価水準にのみ影響を与えるため、ケインズ的な総需要拡大政策は無効だという。むしろ、裁量的な総需要政策による予期されない貨幣供給の変動は、予期されない物価変動を生み、それが景気変動をもたらしてしまう。よって、裁量的な財政・金融政策は放棄すべきで、一定の増加率で貨幣供給を増加させることが望ましいとした。マネタリストに続き、合理的期待形成学派、リアル・ビジネスサイクル理論を唱える人々は、新古典派の想定するように市場メカニズムは機能し、価格は即座に調整されるという立場であった。

 

ニューケインジアン

一方で、現実の経済を見た時、やはり価格はスムーズには動かないとする考え方も登場した。ニューケインジアンは、この価格の硬直性を、新古典派理論を一部用いることによって説明した(マクロ経済学のミクロ的基礎づけ)。例えば、賃金の切り下げは労働者の士気を下げるので賃金を下げないことが企業にとって合理的であるとした効率賃金仮説、商品の値段を変えるのは一定のコストがかかるとしたメニュー・コスト理論などがある。

 

まとめると、1970年代以降の経済理論は、市場メカニズムが機能するか(すなわち、価格が伸縮的か否か)、また総生産の変動は何によってもたらされるか(実物要因か、貨幣要因か)、そして短期と長期で効果がどのように異なるか、という問題意識のもと議論が展開してきたように思われる。

 

(参考):

吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズシュンペーターに学べ』、ダイヤモンド社