本ページでは、プロシクリカリティとは何かについてまとめたい。プロシクリカリティとは、一言でいえば「景気循環増幅効果」のことを指す。景気循環を増幅・助長するような効果ということだ。かねてより、金融システムの安定のために銀行に一定の自己資本を求めるバーゼル規制にはプロシクリカリティがあると指摘されてきた。
バーゼル規制の概要
そもそもバーゼル規制は、リスク性の資産(リスクアセット)に占める自己資本の比率でる自己資本比率を一定以上(8%以上)に保つことを国際業務を営む金融機関に要求するものである。リスク性の資産には株式や貸出、債券など、自己資本に相当するものには資本金や資本剰余金、利益剰余金などが含まれる。この規制により、景気の著しい後退や何らかのショックが生じることにより金融機関の保有する資産の価値が毀損しても、返済する必要のない自己資本が十分にあれば、負債が超過することなく金融機関が破綻することも防げる。
リスクアセットに関して、それぞれの資産のリスクの大きさに応じてウエイトがかかり、同じ資産額であってもリスクの高い資産の方がより多くリスクアセットに反映される。例えば現金であればウェイトが0%であるが、抵当権等により完全に保全された住宅用貸付が50%、一般の貸出が100%、といった具合である。さらに、2004年からの「バーゼルⅡ」においては、貸出のリスクウェイトを一律に同じにするのではなく、個々の貸出先が債務不履行に陥る確率(デフォルト確率)に応じて、それぞれリスクウェイトを調整する方法を導入した。これにより、優良な企業への貸出のリスクウェイトは小さくなることになる。
バーゼル規制のプロシクリカリティ
このバーゼル規制が、プロシクリカリティを持つとはどのようなことなのか。
例えば今、景気後退のフェーズにあるとする。不良債権などが生じ、損失が発生すると、自己資本比率の分子である自己資本部分が減少する。さらに、融資先のデフォルト確率が上昇すると、リスクウェイトが高くなり、分母のリスクアセット相当額が上昇する。自己資本比率の分子が減少し、分母が増加するので、自己資本比率は低下してしまう。
そうすると、銀行は自己資本比率を守るために何らかの策を打たなくてはならない。不景気時に自己資本を積み増すことは難しいので、自然とリスクアセット、とりわけ貸出を減らすことで分母を小さくし、自己資本比率を保とうとする。多くの銀行が貸出を渋るようになると、さらに経済は冷え込み、景気悪化が進行する。
以上の流れを図示すると、以下の様になる。
景気後退
↓
デフォルト確率の上昇
損失の発生
↓
リスクアセットの増加
資本の減少
↓
銀行の貸出の減少
(自己資本比率を保つため)
↓
景気後退
↓
…続く
このように、自己資本比率に関する規制があるからこそ、銀行が貸出を制限し、景気悪化を助長する、という構図が見て取れる。
こうしたバーゼル規制における「プロシクリカリティ」の懸念に対して、2010年に取りまとまった「バーゼルⅢ」ではいくつかの対処がなされた。その詳細については、以下のページを参照されたい。
(参考)
・金融庁、日本銀行(2010)『バーゼル委市中協議文書プロシクリカリティの抑制の概要』
・福田慎一(2014)『金融論 市場と経済政策の有効性』有斐閣