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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

みずほ銀行システム問題に見る銀行業界における市場原理の問題

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日本の三大メガバンクの一つに数えられるみずほ銀行において、2021年、ATMが使えなくなるなどのシステム障害が相次いでいる。

 

通常の産業では、市場原理により企業間で新陳代謝が起こるが、金融業界、特に銀行業においてはそれが難しい。まず、厳しい参入規制が課されているのに加え、規模の大きい銀行は金融システムにおいて重要な役割を担っているので、容易に退場することができないためだ。

 

銀行が大きすぎると"潰せない"理由

なぜ大きすぎると“潰せない”のか。大規模で金融システムの中核をなす金融機関が破綻すると、この金融機関と取引のある多くの金融機関において連鎖的に資金繰りの悪化や信用不安が広がり、金融システム全体が機能不全となり、実態経済全体に悪影響を与える恐れがある。そうすると、金融当局は公的資金を投入してでもその金融機関の破綻を回避し、経済の深刻な冷え込みを防ごうとするだろう。これこそが、「大きすぎて潰せない」問題の本質である。その金融機関を潰れることで、経済全体が影響を受けるため、潰すことができないのである。リーマンショック時に公的資金注入によって救済された保険会社のAIGは、この典型である。


では、これの何が問題なのか。金融機関にとっては、万一破綻の危機に陥った場合でも、どうせ公的機関に援助してもらえるだろう、と考え、高いリスクを取って高いリターンを得ようとするインセンティブがはたらく可能性がある。経済学的にはこのような状態を「モラルハザード」と呼ぶ。要はやりたい放題な状態ということである。

 

公的資金の注入も無尽蔵にできる訳ではなく、国民の反発も必至である。政府にとっても、なるべく公的資金の注入を避けたいのは間違いない。

 

銀行業における市場原理機能発揮の難しさ

要するに、規模の大きな銀行は、あまりに公的な性格が強くなってしまうがために、例え経営上大きな問題を抱えていたとしても、業務を続けざるを得ない。こうして、銀行業は市場原理が働きづらい構造になっていると言えるだろう。監督当局が箸の上げ下げまで指導するということも限界があるし、上で述べたのように「また政府がなんとかしてくれる」とモラルハザードが生じる恐れもある。

 

話は横道に逸れるが、経営効率化のために地銀の統合が加速する中で、一県に一つしか地銀がない、といった状況が進んでいけば、これもまた競争原理という観点からは問題がある。競争相手がいなくても、その県の大事なインフラとして、質の高いサービスを提供することが求められる。

 

今回のみずほの件で、銀行業における市場原理機能が十分に働かないことの弊害を見たように思う。