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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

TLAC、TLAC適格負債とは何か

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本ページでは、TLAC(Total Loss Absorbing Capacity)、TLAC適格債についてまとめたい。TLACとは、一言でいえば、巨大銀行に対して、破綻時に備えた損失吸収力を確保させる取組みである。「大き過ぎて潰せない(TBTF)」問題に対処し、納税者の負担を回避しつつ破綻処理を可能とすることを目指したものとなっている。金融安定理事会(FSB)が2015年にとりまとめた。

 

「大き過ぎて潰せない(TBTF)」問題とは

まず、TLACそのものに関する説明の前に、その背景にある「大き過ぎて潰せない(Too Big To Fail、TBTF)」問題とは何かについて述べたい。

 

ある金融機関について、提供するサービスの規模が大きく、金融システム上重要な役割を担っていると考えられるとき、その金融機関はTBTFであるとみなされる。日本では、メガバンクを想像すればよいだろう。

 

なぜ大きすぎると“潰せない”のか。大規模で金融システムの中核をなす金融機関が破綻すると、この金融機関と取引のある多くの金融機関において連鎖的に資金繰りの悪化や信用不安が広がり、金融システム全体が機能不全となり、実態経済全体に悪影響を与える恐れがある。そうすると、金融当局は公的資金を投入してでもその金融機関の破綻を回避し、経済の深刻な冷え込みを防ごうとするだろう。これこそが、「大きすぎて潰せない」問題の本質である。その金融機関を潰れることで、経済全体が影響を受けるため、潰すことができないのである。すると銀行はどうせ政府が助けてくれるだろうと考え、過剰なリスクをとってしまうおそれがある。そうなると、多額を税金を投入しなければならない可能性が高くなってしまう。

 

TLACとは

前置きが長くなったが、上記の問題に対処するため、公的資金注入による納税者負担を回避することがTLACの基本的なコンセプトである。TLACとは要するに損失吸収力であり、金融機関に十分な損失吸収力を求めるものである。では、「損失吸収力」とは何なのか?損失吸収力とは、つまるところ運用している資産の損失が発生してもカバーできる余力があるか、ということである。

 

例えば、一万円の貯金をはたいてギャンブルをし、全額負けてしまっても、貯金がなくなっただけなので特に問題はない。一万円の貯金は「損失吸収力がある」といえる。一方、一万円を誰かから借りてきてギャンブルをし全額失った場合、借りた一万円は返さないといけないので、どこかから何とかして一万円を調達しなければならない。そのため、借りてきた一万円は「損失吸収力がない」と言える。TBTFである金融機関の場合、その最後の拠り所が公的資金、つまり国民の税金というわけである。

 

バランスシート上、資産の損失に対して、返済する必要のない資金である自己資本は損失吸収力を持つ。さらに、負債の中でも、金融機関の破綻時に①元本削減可能、あるいは②株式に転換可能な負債は、損失吸収力があると見なすことができる。この債券をTLAC適格負債という。要するに、債権者が損失を負担してくれる債券がTLAC適格債ということができる。

 

概念図を以下に示す。一部は損失の吸収として、また一部は株式に転換する機能を持つTLAC適格負債の存在によって、破綻時にも公的資金を注入することなく、損失をカバーすることが可能になっていることが分かる。

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TBTFである巨大な金融機関(G-SIBs)は、十分な損失吸収力を確保することが求められている。

 

では、具体的にどのような負債であれば、上記①、②の性質を満たし、TLAC適格負債に認められるのか。さらに、「十分な損失吸収力」と書いたが、具体的にTLAC規制においてどの程度の水準の損失吸収力が求められるのか、その詳細については、以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

(参考)

金融庁(2016)『国際金融規制改革の最近の動向について

小立 敬(2019)『日本のTLAC規制およびTLAC保有規制の概要-大手金融機関の秩序ある破綻処理を支える枠組み-』、野村資本市場クォータリー2019 Spring

みずほ総合研究所(2015)『G-SIBs向けTLAC規制の最終基準邦銀への影響は限定的と想定