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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

兼営法とは何か

本ページでは、兼営法とは何かについてまとめたい。


兼営法とは、一言でいえば、銀行をはじめとする金融機関が、銀行業務等の金融機関本来の業務のほかに、内閣総理大臣の許可を受ければ信託業務を行うことができる旨を定めたものである。


信託業とは

まずは、そもそも信託業務とは何かについて整理したい。信託業法には、以下のように定義されている。

 

(定義)
第二条 この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

信託業務は、個人や法人(委託者)が保有する財産を受託者に移転させて、その財産を管理・運用することということができる。

 

銀行の業務範囲規制

銀行は本来、厳しい業務範囲規制を課せられている。詳しくは以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

基本的には、銀行の業務範囲は、預金や貸付などの固有業務と、それに付随する業務に限られる(銀行法10条~12条)。

 

兼営法の内容

前置きが長くなったが、兼営法の内容について見ていきたい。

銀行をはじめとする金融機関は、内閣総理大臣の認可を受けて、金融機関固有の業務に加えて、信託業法第二条第1項に規定する信託業務(いわゆる併営業務)を営むことができる。

(兼営の認可)
第一条 銀行その他の金融機関(政令で定めるものに限る。以下「金融機関」という。)は、他の法律の規定にかかわらず、内閣総理大臣の認可を受けて、信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業及び次に掲げる業務(政令で定めるものを除く。以下「信託業務」という。)を営むことができる。
一 信託業法第二条第八項に規定する信託契約代理業
二 信託受益権売買等業務(信託受益権の売買等(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第六十五条の五第一項に規定する信託受益権の売買等をいう。)を行う業務をいう。次条第三項及び第四項において同じ。)
三 財産の管理(受託する信託財産と同じ種類の財産について、次項の信託業務の種類及び方法に規定する信託財産の管理の方法と同じ方法により管理を行うものに限る。)
四 財産に関する遺言の執行
五 会計の検査
六 財産の取得、処分又は貸借に関する代理又は媒介
七 次に掲げる事項に関する代理事務
イ 第三号に掲げる財産の管理
ロ 財産の整理又は清算
ハ 債権の取立て
ニ 債務の履行

このなかで、一~七の業務を「併営業務」と呼ぶ。証券代行業務、遺言関連業務などがある。

 

いわゆる「○○信託銀行」は、この兼営法を根拠に、銀行業務の他にこうした信託業務、併営業務を行っている。

 

不動産関連業務

兼営法の施行令にて、金融機関が行うことができない業務を定めている。

(金融機関が営むことができない業務)
第三条 法第一条第一項に規定する政令で定める業務は、次に掲げる業務とする。
一 土地若しくはその定着物、地上権又は土地の賃借権(以下この号において「土地等」という。)を含む財産の信託であって、土地等の処分を信託の目的の全部又は一部とするもの(次に掲げるものを除く。)
イ 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第十三項に規定する特定目的信託
ロ その受益権の譲渡先が特定目的会社資産の流動化に関する法律第二条第三項に規定する特定目的会社をいう。)又は登録投資法人投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十三項に規定する登録投資法人をいう。)に限られる信託
二 法第一条第一項第一号に掲げる信託契約代理業のうち、前号に規定する信託に係るもの
三 法第一条第一項第六号に掲げる業務のうち不動産の売買及び貸借の代理及び媒介
四 その他内閣府令で定める業務

ここにある通り、不動産関連の業務は行うことができないと規定されている。

しかしながら、いわゆる「○○信託銀行」と名のついている金融機関では、不動産関連業務を行っている。

 

歴史的な経緯から不動産関連業務を続けてきた信託銀行については当該業務が認められているものの、新たに兼営法に基づき内閣総理大臣から認可を受ける場合には、当該業務が認められていない。

 

1993年の国土交通省(当時の建設省)の通達に、その点が明示されている。

今般、「金融制度及び証券取引制度の改革のための関係法律の整備等に関する法律」(平成四年法律第八七号)が施行されたことに伴い、新たに設立される信託銀行子会社の業務範囲及び地域金融機関が本体で行うことができる信託業務の範囲が別添のとおり定められ、大蔵省から通達されたところである。
貴職におかれては、今般の信託銀行子会社及び地域金融機関の信託業務の範囲には、現在の信託銀行の業務と異なり、不動産の仲介業務等が含まれないこと等、左記の事項に留意のうえ、宅地建物取引業法の運用に遺憾なきよう処理されたい。

 

一 今回定められた業務範囲には、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和一八年法律第四三号)(以下「兼営法」という。)第一条第一項に規定する信託業務のうち、次のものは含まれないこと。

1) 信託業法(大正一一年法律第六五号)第五条第一項第三号に規定する「不動産売買ノ媒介、不動産貸借ノ媒介」業務。
2) 宅地建物取引業に該当する信託業務(別添通達 記一、(2)へ、但し書に該当するもの(同ト、ないしリ、において同じ)及び同記二、ロ、但し書(同ハ、について同じ)に該当するもの)。

二 上記一により、信託銀行子会社及び地域金融機関は、不動産売買の媒介又は不動産の貸借の媒介及び宅地建物取引業に該当する信託業務について兼営法第一条第一項の認可は受けられないことから、宅地建物取引業法(昭和二七年法律第一七六号)第七七条第三項に基づく届出を行えないこと。

(下線部は筆者追加)

 

 

(参考):

www.shintaku-kyokai.or.jp

 

建設省経動発第三九号「金融制度及び証券取引制度の改革のための関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う宅地建物取引業法の運用について