<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

CATボンドとは何か

f:id:hongoh:20210316221549j:plain


 本ページでは、CATボンドとは何かについてまとめたい。

 

CATは大災害を意味するカタストロフィー(Catastrophe)の略語で、CATボンドとは、一言でいえば、通常よりも高い利率で投資家から資金を集め、一定の条件を満たす災害が発生したときに、投資家の償還元本が棄損する代わりにボンドの発行者が資金を受取ることのできる仕組みである。災害リスクを証券化し、小口の投資家に分散させる効果を持つ。

 

CATボンドの意義

保険会社は、発生確率が非常に低いもののひとたび起これば大きな損失が想定される災害について、ひとたび保険引受を行えば、災害が生じた際には保険金を支払わなければならず、そのための資金を確保する必要がある。

 

保険会社が支払い能力を超える引受を行う場合には、従来、再保険という仕組みが用いられてきた。再保険とは、保険会社が「再保険会社」に手数料(再保険料)を支払って、自社が引き受けたリスクの一部を再保険会社に移転する契約のことをいう。

 

CATボンドは、再保険に代わるリスクの移転手段として機能する。保険会社は、証券化の仕組みにより、マーケットの投資家にリスクを分散することが可能となった。CATボンドの登場によって、保険会社の引受能力の向上につながったということができる。

 

また、保険会社以外にも、自然災害に大きな影響を受ける会社がCATボンドを発行することで、損失のリスクを回避することができる。過去には、ディズニーランドを運営するオリエンタルランドがCATボンドを発行したことで知られる。

 

証券化とは何か

上述の通り、CATボンドは「証券化」を利用した仕組みである。それでは、この「証券化」とは何を意味するのか。証券化は、一言でいえば「ある資産にたくさんの投資家が小口で投資できる仕組み」ということになる。

 

例えばある投資家がオフィスビルに投資して賃料等の収入を得たいと考えた時、この証券化の仕組みがなければ、投資家はビル一棟を丸々購入しなければならない。財力が十分にあれば可能かもしれないが、多くの投資家にとっては高額で、かつハイリスクである。

 

しかし、ビルの保有者が「ビルの賃料等の収入を得られる権利」を「証券」として発行して、多くの投資家に売却すれば、投資家は少ない金額でビルに投資をすることができる。

 

反対に、不動産やローンなどの資産を持っている会社がこの「証券化」を行いたいと思う理由は、資産売却による「資金調達」と「リスク移転」ということができるだろう。

 

証券化については、以下のページにもまとめている。

hongoh.hatenablog.com

 

CATボンドの仕組み

f:id:hongoh:20210526222305p:plain

CATボンドの概念図

前置きが長くなったが、CATボンドの仕組みについて述べたい。CATボンドにおいて何を証券化するのかといえば、「災害リスク」ということになる。上記に述べたような不動産といった資産と違い、「リスクを証券化する」というのは少々分かりにくいが、個々の投資家は、災害が生じた際に補償しなければならないというリスクを引き受ける代わりに、通常よりも高い利回りを享受できる。証券化によって多くの投資家に小口にリスクを分散させるので、投資家一人当たりのリスクは小さくなる。

 

上図がCATボンドの仕組みとなる。上図には「SPC」と書いてあるが、これは保険リスクの証券化を専ら目的とする「SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)」が、CATボンドを発行して投資家に配る、という形をとる。

 

SPCは保険会社からプレミアムの支払いを受ける。反対に、大規模災害等が発生した際には、SPCに対して保険料を支払う

 

しかしながら、SPCは実態のないペーパーカンパニーであり、取引を行うには担保が必要である。そこで、CATボンドの発行に際して投資家から払込を受けた資金国債等の安全資産を購入し、担保とする。災害の発生時には、これが支払い原資となる

 

そして、保険会社からのプレミアム支払いを元に、投資家に利払いが行われる。

 

なお、図ではリスクの移転者を「保険会社」として表現したが、上記の通り、災害により大きな損失を被ることのある一般企業がCATボンドを発行することもある。

 

投資家側のメリット

保険会社にとってはCATボンドはリスク移転の手段として機能することは既に述べたが、投資家側のメリットは何なのだろうか。

 

ボンドの償還期間までに災害が発生しない限り、投資家は利払いと満期には元利金を受け取ることができる。自然災害の発生はマーケットの動向とは無関係であるため、投資家にとってはCATボンドは伝統資産と相関の低い新たなリターン源泉と位置付けられる。

 

 

損保ジャパン総研レポート(2012)『活況を呈し始めた保険リンク証券への期待
―キャットボンドを中心とした動向―

投資信託におけるオープン・アーキテクチャーとは

f:id:hongoh:20210526165609j:image

本ページでは、投資信託におけるオープン・アーキテクチャーとは何か、そして日本の現状についてまとめたい。オープン・アーキテクチャーとは、一言でいえば、投資信託を販売する販売会社が、系列の運用会社の投信のみならず、幅広い運用会社の投信を販売する形態を指す。

 

運用会社と販売会社

日本の資産運用業界の一つの特徴として、投資信託は資産運用会社が直接販売する(直販)のではなく、販売会社を通じて販売されるという点があげられる。

 

さらにもう一つの大きな特徴としてあげられるのは、大手を中心に日本の多くの資産運用会社は、金融グループに属し、系列の販売会社が存在するという点である。例えば、野村アセットマネジメントであれば野村證券という販売会社が存在する、といった具合である。そして、運用会社と系列の販売会社は非常に強固な結びつきがあることで知られている。

 

日本におけるオープン・アーキテクチャ

日本においては、上記のような特徴もあり、オープン・アーキテクチャーが十分に進んでいないのではないか、という意見がある。つまり、販売会社が、系列の運用会社の商品ばかりを売っているのではないか、ということだ。

 

受託者責任(フィデューシャリー・デューティ)という観点で考えれば、販売会社は顧客にとって最良な商品を提供しなければならないが、それが系列の運用会社の商品で固められているのではないか、という懸念である。オープン・アーキテクチャー化が進み、系列の枠を超えて本当に良い商品のみラインナップに並べるようになれば、運用会社間の競争が高まり、投資家に質の高い商品が提供されると考えられる。(個人的には、各販売会社が熟慮の結果系列の運用会社のファンドを中心に並べるのは、それはそれで問題ないと考える。)

 

ただし、日本で中小の資産運用会社にとっては、ビジネスに入り込むのが難しいのは間違いない。主要な販売会社の商品ラインナップが、系列の運用会社で固められていると、新興の運用会社が入り込む隙はない。これは、運用会社間の競争環境という観点では望ましくないと考えられる。

 

ただし、最近では大手のネット証券が、あらゆる運用会社の投資信託をラインナップに揃えている。そうした中に、中小の運用会社の商品も多く入っている。

 

そして、反対に、運用会社の側からも同じことがいえる。ある運用会社が組成した投資信託が、系列の販売会社にしか売られないとしたら、より幅広い投資家がアクセスすることが難しくなる。さらに、その販売会社にしか売ることができないとすれば、その販売会社が売りやすい商品を作る必要に迫られ、運用会社が本当に作りたい商品を作れない可能性もある。

 

以上、投資信託の商品ラインナップを、運用会社と販売会社という視点で考えたが、いずれにせよ、投資家が本当に良い商品を、分かりやすい形で選択できる環境が整う必要があると考える。

 

(出典):

杉田浩治(2016)『投資信託の販売をめぐる世界の動向』、日本証券経済研究所

日本投資顧問業協会(2015)『拡大版コーポレートガバナンス研究会』

改正貸金業法の概要と問題意識について

f:id:hongoh:20210316221706p:plain

本ページでは、改正貸金業法の概要についてまとめたい。

 

貸金業法改正の背景

改正貸金業法は、2006年に成立した。当時の日本においては、「多重債務問題」が社会問題化していた。

 

2003年、全国の個人の自己破産申立件数は24万件を超え、これは1990年の1万1273件と比較すると20 倍程度の増加である。

 

多重債務問題の背景は、不景気下、低収入や収入の減少により、生活費等を補うために消費者金融等に手を出したケースが多いことが知られている。そして、今借りているお金を返せず、他からの借金で返済することを余儀なくされると、多重債務に陥ってしまう。

 

改正貸金業法の概要

多重債務債務問題への対応のために成立した改正貸金業法は、以下の3つを主要な項目と位置付けている。

 

①上限金利の引き下げ

改正貸金業法が成立する以前には、法律上の上限金利として、

(1) 利息制限法の上限金利

:貸付額に応じ15%~20%

(2) 出資法の上限金利

:改正前は29.2%

 

の2つがあった。

従来、貸金業者はこの出資法の上限金利と利息制限法の上限金利の間の金利水準であっても、一定の要件を満たせば認められていた。これがいわゆる「グレーゾーン金利」と呼ばれるものである。

 

金利負担を軽減するという考え方から、改正により、出資法の上限金利が20%に引き下げられ、グレーゾーン金利が撤廃された。これによって、上限金利は利息制限法の水準(貸付額に応じ15%~20%)となった。

 

②総量規制の導入

貸付の総量に対する規制である。貸金業者からの借入残高が個人の申込者の年収の3分の1を超える場合、新規の借入れをすることができなくなる。法人名義での借入れは対象外である。

 

また、住宅ローンをはじめとした、一般に低金利で返済期間が長い一部の貸付けについては、総量規制は適用されない。

 

さらに、借入れの際、源泉徴収票や給与明細などの「年収を証明する書類」が必要となる。

 

貸金業の適正化

最後に、貸金業者への規制も厳しくしている。具体的には、行為規制の強化や、法律遵守の指導・助言を行う国家資格である貸金業務取扱主任者を営業店に置くことを義務付けている。

(参考) 

金融庁HP「貸金業法のキホン

全国銀行協会シリーズ教材お金のキホン

日本貸金業協会(2019)「貸金業界の現状と事業者における資金調達等の実情について
(日本貸金業協会の概要・小規模事業者の資金ニーズ)

岩重佳治(2006)「多重債務問題の現状と課題」、日仏社会学会年報

 

銀行には貸金業法は適用されない?

f:id:hongoh:20210316221549j:plain

貸金業法は、金銭の貸付を営む業者に対する規制を定める法律である。貸金業法に定める「貸金業者」は、主に消費者金融やクレジットカード会社等を想定したものとなっている。

 

ここで、「お金を誰かに貸し付ける業者」として本来最も代表的なものは、銀行であろう。メガバンクなどの大手銀行は、融資の他に銀行業務の一環として、キャッシング、カードローンといった、消費者金融的側面のある貸付業務を行なっている。

 

銀行のこうした業務について、本来必要であるはずの貸金業の登録は不要となっている。なぜなら、銀行には「銀行法」という別の法律が設けられているためである。

 

ただし、ここでひとつの問題が生じる。

 

貸金業法の「総量規制」の問題

貸金業法においては、「総量規制」が重要な規制となる。総量規制とは、申込者の年収の三分の一を超えて貸し付けてはならない、というもので、2000年代前半に社会問題化した多重債務問題への対策のため導入された規制である。

 

貸金業法に定める「総量規制」も、銀行には適用されないという点は特筆に値する。すると、銀行による貸付サービスであれば、年収の三分の一以上でも貸し付けることができるということであり、法の潜脱になっているのでは、との指摘も出た。

 

そこで、全国銀行協会は2017年に「銀行による消費者向け貸し付けに係る申し合わせ」を発表。その中で、各銀行に対し「配慮に欠けた広告・宣伝の抑制」「健全な消費者金融市場の形成に向けた審査態勢等の整備」を求めた。

 

現在では、銀行においても総量規制に準じて契約を行うなど、貸金業法を踏まえた対応を講じているところもあり、銀行においては自主規制が浸透している。

 

一般社団法人全国銀行協会(2017)「銀行カードローンに関する 全銀協の取組みについて

クレジットカード会社は貸金業法と割賦販売法の規制を受ける

f:id:hongoh:20210316222216j:plain

銀行や証券会社の他にも、金融サービスを提供する様々な業者がある。「クレジットカード」もその一つであり、日常生活において非常に身近なものとなっている。このクレジットカード業務を営む会社は、いかなる規制を受けるのか。本ページでは、クレジットカード会社に関連する法律についてまとめたい。

 

クレジットカード会社の主な業務

クレジットカード会社の業務は、大きく分けて以下の2つに分類される。

 

①キャッシングやカードローン

クレジットカードで現金を借りる場合をキャッシング、ローン専用カードで現金を借りる場合をカードローンといい、カード会社は、これらのサービスを行なっている。

 

このとき、クレジットカード会社は、金銭の貸付を行なっているため、「貸金業法」に基づき、「貸金業者」の登録が必要となる。

 

貸金業法においては、「総量規制」が重要な規制となる。総量規制とは、申込者の年収の三分の一を超えて貸し付けてはならない、というもので、2000年代前半に社会問題化した多重債務問題への対策のため導入された規制である。

 

注意したいのは、銀行が営んでいる上記サービスに関しては、貸金業の登録は必要ないということである。なぜなら、銀行は銀行法による規制を受けているためである。そのため、貸金業法に定める「総量規制」も適用されないという点は特筆に値する。銀行による貸付サービスが、法の潜脱になっているのでは、との指摘もあり、今では各銀行は自主規制を講じている。

 

貸金業法は、金融庁が所管している。

 

②ショッピング取引

クレジットカードで商品やサービスを購入するといったショッピング取引については、「貸金業法」は適用されない。ショッピング取引の本質は、数回に渡って分割して支払うことを約束する形態にある(リボ払い、分割払い、ボーナス払いなど)。

 

これを「割賦販売」といい、「割賦販売法」という法律が適用される。割賦販売法は、経済産業省の所管である。

 

 

以上、クレジットカード会社が規制を受ける法律についてまとめた。業務に応じて法律が代わり、さらに所管省庁も違うことが分かる。

TLAC適格負債の要件、TLACの所要水準について

f:id:hongoh:20210316221549j:plain

本ページでは、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)に課されるTLACについて、TLAC適格負債の要件、そしてTLAC所要水準についてまとめたい。

TLACとはそもそも何か、については、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

TLAC適格負債の要件

TLAC適格負債の要件として、主に以下が定められている。

・破綻処理対象会社(破綻処理エンティティ)が発行し、維持していること

・グループの内部から調達していないこと

・預金等(除外債務という)よりも返済の優先順位が劣後していること(劣後要件

・無担保であること

・満期までの期間が1年以上であること

 

劣後要件について、何をもってその債券が劣後性を持つとみなすのか。これには、3通りの方法がある。

①法定劣後型:各国の法令に基づき劣後させる方法

②契約劣後型:契約によって劣後させる方法

③構造劣後型:除外債務のない持株会社等の破綻処理エンティティが発行することによる方法

 

③の構造劣後は少し紛らわしいかもしれない。持株会社(例えばみずほであればみずほ銀行ではなくみずほフィナンシャルグループである)は、多くの場合自ら事業を営む訳ではなく、子会社の株式保有が資産の大半を占めている。そのため、持株会社が外部から資金調達するにあたって発生した負債の返済は、子会社からの収入に依存している。持株会社の発行する債券と、実際にキャッシュフローを生み出す子会社の債券を比較すると、前者が構造的に劣後することが考えられる。

 

日本のTLAC規制対象金融機関はすべて金融持株会社をもっており(○○フィナンシャルグループ)、この③を劣後要件として適用できる。

 

TLAC所要水準

バーゼルⅢの定める自己資本比率規制におけるリスク性の資産(リスクアセット)比で、2019年までに16%、2022年までに18%、自己資本あるいはTLAC適格負債を確保することを定めている。

 

ところで、リスクアセットについて、それぞれの資産のリスクの大きさに応じてウエイトがかかり、同じ資産額であってもリスクの高い資産の方がより多くリスクアセットに反映される。一方、バーゼルⅢが定めるレバレッジ比率におけるエクスポージャーという概念もあり、これはリスクウェイトをかけずに、バランスシート上の総資産の額等を単純に足し合わせたものである。

 

TLAC所要水準では、このレバレッジ比率におけるエクスポージャーも基準に所要水準を設けており、2019年 までに6%、2022年 6.75%がその水準となっている。

 

詳細については、以下のような文献を参考にされたい。

(参考)

金融庁(2016)『国際金融規制改革の最近の動向について

小立 敬(2019)『日本のTLAC規制およびTLAC保有規制の概要-大手金融機関の秩序ある破綻処理を支える枠組み-』、野村資本市場クォータリー2019 Spring

みずほ総合研究所(2015)『G-SIBs向けTLAC規制の最終基準邦銀への影響は限定的と想定

 

 

TLAC、TLAC適格負債とは何か

f:id:hongoh:20210316221549j:plain

本ページでは、TLAC(Total Loss Absorbing Capacity)、TLAC適格債についてまとめたい。TLACとは、一言でいえば、巨大銀行に対して、破綻時に備えた損失吸収力を確保させる取組みである。「大き過ぎて潰せない(TBTF)」問題に対処し、納税者の負担を回避しつつ破綻処理を可能とすることを目指したものとなっている。金融安定理事会(FSB)が2015年にとりまとめた。

 

「大き過ぎて潰せない(TBTF)」問題とは

まず、TLACそのものに関する説明の前に、その背景にある「大き過ぎて潰せない(Too Big To Fail、TBTF)」問題とは何かについて述べたい。

 

ある金融機関について、提供するサービスの規模が大きく、金融システム上重要な役割を担っていると考えられるとき、その金融機関はTBTFであるとみなされる。日本では、メガバンクを想像すればよいだろう。

 

なぜ大きすぎると“潰せない”のか。大規模で金融システムの中核をなす金融機関が破綻すると、この金融機関と取引のある多くの金融機関において連鎖的に資金繰りの悪化や信用不安が広がり、金融システム全体が機能不全となり、実態経済全体に悪影響を与える恐れがある。そうすると、金融当局は公的資金を投入してでもその金融機関の破綻を回避し、経済の深刻な冷え込みを防ごうとするだろう。これこそが、「大きすぎて潰せない」問題の本質である。その金融機関を潰れることで、経済全体が影響を受けるため、潰すことができないのである。すると銀行はどうせ政府が助けてくれるだろうと考え、過剰なリスクをとってしまうおそれがある。そうなると、多額を税金を投入しなければならない可能性が高くなってしまう。

 

TLACとは

前置きが長くなったが、上記の問題に対処するため、公的資金注入による納税者負担を回避することがTLACの基本的なコンセプトである。TLACとは要するに損失吸収力であり、金融機関に十分な損失吸収力を求めるものである。では、「損失吸収力」とは何なのか?損失吸収力とは、つまるところ運用している資産の損失が発生してもカバーできる余力があるか、ということである。

 

例えば、一万円の貯金をはたいてギャンブルをし、全額負けてしまっても、貯金がなくなっただけなので特に問題はない。一万円の貯金は「損失吸収力がある」といえる。一方、一万円を誰かから借りてきてギャンブルをし全額失った場合、借りた一万円は返さないといけないので、どこかから何とかして一万円を調達しなければならない。そのため、借りてきた一万円は「損失吸収力がない」と言える。TBTFである金融機関の場合、その最後の拠り所が公的資金、つまり国民の税金というわけである。

 

バランスシート上、資産の損失に対して、返済する必要のない資金である自己資本は損失吸収力を持つ。さらに、負債の中でも、金融機関の破綻時に①元本削減可能、あるいは②株式に転換可能な負債は、損失吸収力があると見なすことができる。この債券をTLAC適格負債という。要するに、債権者が損失を負担してくれる債券がTLAC適格債ということができる。

 

概念図を以下に示す。一部は損失の吸収として、また一部は株式に転換する機能を持つTLAC適格負債の存在によって、破綻時にも公的資金を注入することなく、損失をカバーすることが可能になっていることが分かる。

 f:id:hongoh:20210609134734p:plain

 

TBTFである巨大な金融機関(G-SIBs)は、十分な損失吸収力を確保することが求められている。

 

では、具体的にどのような負債であれば、上記①、②の性質を満たし、TLAC適格負債に認められるのか。さらに、「十分な損失吸収力」と書いたが、具体的にTLAC規制においてどの程度の水準の損失吸収力が求められるのか、その詳細については、以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

(参考)

金融庁(2016)『国際金融規制改革の最近の動向について

小立 敬(2019)『日本のTLAC規制およびTLAC保有規制の概要-大手金融機関の秩序ある破綻処理を支える枠組み-』、野村資本市場クォータリー2019 Spring

みずほ総合研究所(2015)『G-SIBs向けTLAC規制の最終基準邦銀への影響は限定的と想定