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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

安定調達比率とは何か

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本ページでは、バーゼル規制における安定調達比率とは何かについてまとめたい。

 

流動性リスクの顕在化により、銀行の健全性が損なわれると、金融システム全体、ひいては実体経済にまで影響を及ぼしかねない。そこで、バーゼルⅢでは、流動性確保のために、流動性カバレッジ比率や安定調達比率といった規制を金融機関に求めている。今回は、後者について概説する。

 

流動性リスクについては、以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

安定調達比率とは

流動性リスクの顕在化を防ぐための中長期的流動性に関する規制が安定調達比率である。もう一つの流動性規制である流動性カバレッジ比率が、ストレス時の短期的な資金流出に対する規制であるのと対照的である。

 

銀行は、預金や市場から調達した資金を、貸出や資産への投資を行うことで運用する。そして運用した資産は最終的には回収し、負債を返済したうえで、利益を確定させる。簡単に言えば、調達→運用→回収→返済、という一連の流れである。現在運用している、直ちに売却・換金することが困難な流動性の低い資産の額に応じて、流動性が高く中長期で安定的に調達することのできる額を確保するよう求めたものが、安定調達比率である。

具体的には、安定調達比率は以下のようになる。

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以下、分子と分母をそれぞれ見ていきたい。

 

利用可能な安定調達額(分子)

利用可能な安定調達額とは、簡単に言えば、中長期で安定的に調達することのできる(流動性の高い)資産の額である。具体的には、自己資本長期負債のほか、リテール預金などが含まれる。預金が含まれるのは、預金者がすべてお金を引き出すという可能性は考えにくいため、安定的な調達源とみなすことができるためである。

つまり、バランスシート上、負債、自己資本に計上されるものが対象となる。

 

 

所要安定調達額(分母)

所要安定調達額は、資産に対して安定的に資金調達が必要な額を示している。すなわち、直ちに売却・換金することが困難な(流動性の低い)資産の分だけ、安定的に調達ができている必要がある、ということを示したものといえる(「所要」安定調達額、とはそういうことである)。長期の貸出や、非上場株などが含まれる。

 

(参考)

みずほ総合研究所(2017)『国際金融規制と銀行経営 ビジネスモデルの大転換』、中央経済社

流動性カバレッジ比率とは何か

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本ページでは、バーゼル規制における流動性カバレッジ比率とは何かについてまとめたい。

 

流動性リスクの顕在化により、銀行の健全性が損なわれると、金融システム全体、ひいては実体経済にまで影響を及ぼしかねない。そこで、バーゼルⅢでは、流動性確保のために、流動性カバレッジ比率や安定調達比率といった規制を金融機関に求めている。今回は、前者について概説する。

 

流動性リスクについては、以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

流動性カバレッジ比率とは

流動性リスクの顕在化として、危機時の大規模な資金流出が挙げられる。資金流出により資金繰りが困難となり業務の継続に支障が生じることを防ぐためには、ストレス時に予想される短期間の資金流出額以上に、ストレス時においても大きく価値が減ることなく、かつすぐに換金できる資産があれば、急な資金流出にも対処できる。そこで、バーゼルⅢでは、

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を保つよう求めている。これは、30日という、短期的流動性リスクに対応したものとなっている。

以下、分子と分母をそれぞれ見ていきたい。

 

適格流動資産(分子)

適格流動資産とは、簡単に言えば、ストレス時においても大きく価値が減ることなく、かつすぐに換金できる資産である。レベル1資産、レベル2A資産、レベル2B資産の区分があり、それぞれ適格流動資産に算入できる「算入率」が異なっている。具体的には、以下のとおりである。

レベル1資産
  • 現金、中銀預金、国債(リスクウェイト0%、自国の国債

→算入率100%

レベル2A資産

→算入率85%

レベル2B資産

→算入率75%

→算入率50%

 

レベル2資産全体で40%、レベル2B資産で15%が適格流動資産への算入の上限となっている。

 

30日間のストレス期間の純資金流出額(分母)

純資金流出額は、資金流出額-資金流入、で計算できる。

 

資金流出額

30日が経過するまでに返済しなければならない金融機関や事業会社からの担保・無担保の調達(ホールセール調達)や、個人の預金(リテール預金)などが対象となる。ストレス時に流出の可能性が高いものほど、算入率が高く設定されている。

 

資金流入

反対に、30日が経過するまでに返済される金融機関向け・事業会社向けの健全な貸出やレポ運用等が含まれる。確実に返済されると考えられるものほど、算入率が高く設定される。

 

 

(参考)

みずほ総合研究所(2017)『国際金融規制と銀行経営 ビジネスモデルの大転換』、中央経済社

銀行の流動性リスクについて

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本ページでは、銀行の流動性リスクについてまとめたい。

ある資産の流動性があるとは、市場で十分な取引量がある等の理由により、「資産を市場から調達しやすい」あるいは「資産を売却して換金しやすい」といったことを意味する。

 

銀行における流動性リスク

銀行は、預金や市場から調達した資金を、貸出や資産への投資を行うことで運用する。そして運用した資産は最終的には回収し、負債を返済したうえで、利益を確定させる。簡単に言えば、調達→運用→回収→返済、という一連の流れである。この流れのどこかが機能不全に陥ってしまうと、業務に支障をきたし、ひいては経営の健全性に悪影響を及ぼす可能性もある。

 

この一連の流れがスムーズに動くためには、冒頭で述べた「流動性」が十分にあることが前提となる。流動性が十分にある状態、つまり市場で十分に取引されている状態においては、調達したいときに、調達し、売却したいときに売却できる。反対に、流動性が少なく、市場の供給が極めて小さい場合、必要な資金確保が困難となったり、著しく高い高い金利で資金調達しなければならない可能性がある。また、資産の売却が困難となり、著しく不利な価格で取引を行わなければならなくなる可能性もある。

 

このように、「流動性」は健全な銀行経営のために非常に重要な要素であるが、この流動性が不足することによるリスクを「流動性リスク」という。

 

具体的な流動性リスク

以下、資金の①調達、②回収・返済の各場合において、具体的に流動性リスクがどのように顕在化するかについて見ていく。

①資金の調達

  1. 銀行の信用不安等により、預金が流出する場合。預金は銀行にとって主要な、かつ平時であれば安定的な資金調達源であり、預金が大幅に流出すれば貸出を行うことが困難となる。
  2. 流動性の不足により市場からの調達が困難となる場合。例えば、「インターバンク市場」という銀行間の市場において、日々の資金繰りのための資金である「コールマネー」が取引される。こうした市場からの調達が、流動性の不足により困難になる、あるいは供給が少ないために著しく高い金利で調達せざるを得ない可能性がある。あるいは、資金の供給主体がより多くの担保を銀行に対して要求してくる可能性もあり。

 ②資産の回収と負債の返済

  1. 貸出先の破綻によって、資金の回収が不可能になる場合。
  2. 保有している資産の流動性が不足し、売却ができない、あるいは売却できるにしても需要が低いために著しく低い価格での売却を余儀なくされる可能性がある。

上記のような状況では、資金を満足のいく形で回収できず、負債の返済が困難となってしまう恐れがある。

 

一般に銀行は、いつでも引き出しに応じなければならない(つまり流動性の高い)預金によって資金を調達し、すぐには換金が難しい(つまり流動性の低い)貸出等によってその資金を運用している。つまり、資産と負債で流動性にズレがあり、これを流動性ミスマッチという。この流動性ミスマッチは銀行が本質的に抱える流動性リスクであり、例えば経済的なショックが起きて一斉に預金者が預金の引き出しを求めた時、それに応じるために資産を換金しなければならないが流動性が低いために換金できず、最悪の場合破綻してしまうといった恐れがある。

 

金融システムへの影響

ある銀行における流動性リスクの顕在化は、金融システム全体に影響を及ぼす可能性がある。例えば、ある大規模な銀行が預金の流出に対応するために保有資産を低価格で投げ売った場合、市場の資産価格の下落を通じて他の銀行のバランスシートも棄損し得る。各銀行の財務状況が悪化し、預金への不安が市場全体に広がった場合、各銀行は急激な預金の流出に備えてキャッシュを手元に保有しようとする。その結果、インターバンク市場は機能しなくなり、各銀行の資金調達はますます困難となる。このように流動性の危機が悪循環の中で増大していく恐れがある。さらにこうした状況下では銀行は貸渋りをするようになり、実体経済にも影響を及ぼすことになる。

 

流動性リスクの顕在化により、銀行の健全性が損なわれると、金融システム全体、ひいては実体経済にまで影響を及ぼしかねない。そのため、各国の中央銀行は、危機時の金融機関に対する流動性の供給という役割を担っており、「最後の貸し手」と呼ばれる。

 

また、バーゼルⅢでは、流動性確保のために、流動性カバレッジ比率や安定調達比率といった規制を金融機関に求めている。

 

(参考):

日本銀行(2013)『流動性リスクの把握と管理

Armour, J., Awrey, D., Davies, P., Enriques, L., Gordon, J. N., Mayer, C., & Payne, J. (2016). Principles of Financial Regulation. Oxford University Press.

組合型ファンドの種類について

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本ページでは、組合型ファンドにはどのような種類があるかについてまとめたい。

そもそも、ファンドにはどのような種類があるかについては、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

組合型ファンドの一般的な特徴としては、組合という法人格を持たない性質のため、ファンドに対して法人税が課されず、利益に対して二重課税が発生しない点が挙げられる。

 

また、組合型ファンドは一般的に投資家が少数であるPE(プライベートエクイティ)、VC(ベンチャーキャピタル)などで使用されることが多いことも特徴である。

 

組合型ファンドの選択にあたっては、出資者の有限責任が認められるか、ということが重要になってくる。有限責任とは、ファンドの債務返済が困難になったときに、自らの出資額を超えてその返済に責任を持たなくてよいことを意味する。反対に無限責任の場合、ファンドへの出資額を超えて、自らの資産を使ってでも返済を行う責任がある。投資家にとっては、有限責任の方が都合がよいことは間違いないだろう。有限責任の組合員をLP(リミテッドパートナー)、無限責任の組合員をGP(ジェネラルパートナー)という。

 

以下、各組合型ファンドについて具体的に述べる。

 

任意組合(民法上の組合)

任意組合とは、民法上定められた組合契約である。任意組合の特徴は、出資者全員が無限責任を負担するという点である。

 

任意組合のメリットとして、投資対象に特段の制限がなく、組合に対する監査も必要がないので、運用者にとっては扱いやすいという点が挙げられる。

 

匿名組合

匿名組合とは、出資者と営業者が1対1で結ぶ契約であり、営業者は出資者に対して、営業によって生じた利益を分配することを約束するものである。出資者は、匿名で出資することが可能である。出資された財産は営業者に帰属し、出資者は事業を行う権利がない匿名組合員は、有限責任であるため、出資額を超えて損失を被ることはない。

 

不動産流動化や、クラウドファンディングといった分野での使用例が多い、

 

投資事業有限責任組合(LPS)

経産省が所管する「投資事業有限責任組合契約に関する法律」によって定められている「投資事業有限責任組合」は、PE組成において一般的によく使われる。

 

最大の特徴は、一部の組合員が「有限責任組合員」になることが認められている点である。その代わり、有限責任のみを有する場合はファンド運営を行ってはいけない。よって、ファンドを運用する運用会社が無限責任組合員(GP)となり、投資家が有限責任組合員(LP)となる。

 

運用者にとって制約になるのは、出資額の50%以上を国内に投資しなければならないという点である。これは、この法律の基本思想が「国内企業に資金を供給する」ことを前提としているためである。よって、海外に投資するファンドを組成する場合は、投資事業有限責任組合によく似た海外籍のファンドである「リミテッド・パートナーシップ」が用いられる。

 

もっとも、海外投資家をもっと呼び込んで市場を活性化させる観点から、この「50%要件」の見直しを求める声は大きい。

 

有限責任事業組合(LLP)

有限責任事業組合(LLP)では、投資事業有限責任組合(LPS)とは異なり、組合員全員が有限責任であり、出資額の範囲までしか組合の債権者に対して責任を負わない。

 

さらに、取締役会や監査役のような経営者に対する監視機関の設置が強制されないなど、柔軟な運営が可能となる。

 

一方で、LPSでは無限責任組合員のみがファンド運営を行えるという決まりになっているが、LLPでは業務執行において全組合員の同意が必要となる。さらに、組合員が新規加入又は脱退する際には、その都度、組合員全員の意思決定に基づく契約変更の手続が必要である。そのため、少人数で各出資者がある程度主体的にファンド運営に関わる場合には、LLPの利用が有用である可能性がある。

 

(参考)

幸田博人ほか(2020)『プライベート・エクイティ投資の実践 オープン・イノベーションが企業を変える』、中央経済社

 

有限責任事業組合(LLP)制度の創設について(METI/経済産業省)

 

米田保晴(2004)『匿名組合の現代的機能(1)ーその現状と法律上の論点ー信州大学法学論集 第4号

 

パススルーとペイスルー-二重課税の回避-

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本ページでは、ファンドへの課税における「パススルー」と「ペイスルー」の概念の違いについてまとめたい。どちらも、法人税所得税の「二重課税」を防ぐしくみであり、「導管性」を持つという言い方をされる。

 

二重課税について

器(ビークル)であるファンドに「法人格」があると、発生したリターンに対してまず法人税が課され、その後投資家に分配される段階で所得税が課されてしまう。このように税金が二重に取られてしまう構造を「二重課税」という。

 

パススルー

二重課税を防ぐためには、ファンドが法人格を有さなければ良い。多くのPEファンドでは、法人格を有さない「組合型」のファンドが選択される。組合型ファンドは法人ではないので、法人税は課されず所得税のみの課税にとどめることができる。このように、ファンド段階では課税されず、投資家段階でのみ課税されるスキームを「パススルー」という。

 

組合型のファンドには、任意組合有限責任事業組合投資事業有限責任組合などがある。

 

ペイスルー

ファンドに法人格がある場合でも、投資家に対する配当が損金算入されれば、法人課税を避けることができる法人税は益金-損金の額に対して課税されるので、配当が損金に入れば法人課税の対象外となる)。損金算入することで法人課税を逃れるしくみを「ペイスルー」という。

 

不動産投資にて用いられている投資法人や、特定目的会社にて、ペイスルーできる要件が定められており、「導管性要件」という。配当可能利益の90%超の利益の配当を行っていることや、全体の募集額のうち50%以上が国内で募集されていることなどが導管性要件となっている。

 

 

以上、パススルーとペイスルーの違いについてまとめたが、それぞれ対象となっているファンドの類型が異なっている。そもそもファンドにはどのような種類があるのか、については、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

(参考)

EY税理士法人(2016)『インフラ投資法人の導管性要件 平成28年税制改正を受けて』

幸田博人ほか(2020)『プライベート・エクイティ投資の実践 オープン・イノベーションが企業を変える』、中央経済社

PEファンドのビークルについて

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本ページでは、PEファンドを組成する際に用いられるビークルの種類についてまとめたい。

 

ファンドは「器(ビークル)」である。どの器を用いるかによって、運営のし易さや、課税方法などが変わってくる。

 

ファンドにはどのようなビークルの種類があるかについては、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

ビークル選定にあたって考慮すべき点

PEファンドのビークル選定にあたっては、一般に以下の点が考慮される。

①二重課税を回避できるか

器(ビークル)に「法人格」があると、発生したリターンに対してまず法人税が課され、その後投資家に分配される段階で「所得税」が課されてしまう。このように税金が二重に取られてしまう構造を「二重課税」という。これを防ぐために、多くのPEファンドでは法人格を有さない「組合型」のファンドが選択される。組合型ファンドは法人ではないので、法人税は課されず所得税のみの課税にとどめることができる。このように、ファンド段階では課税されず、投資家段階でのみ課税されるスキームを「パススルー」という。

 

有限責任が認められるか

有限責任とは、ファンドの債務返済が困難になったときに、自らの出資額を超えてその返済に責任を持たなくてよいことを意味する。反対に無限責任の場合、ファンドへの出資額を超えて、自らの資産を使ってでも返済を行う責任がある。投資家にとっては、有限責任の方が都合がよいことは間違いないだろう。

 

有限責任の組合員をLP(リミテッドパートナー)、無限責任の組合員をGP(ジェネラルパートナー)という。

 

一般的によく用いられるビークル

以下、具体的にPEファンドでよく用いられるビークルについて述べる。

任意組合(民法上の組合)

任意組合とは、民法上定められた組合契約である。組合型であるため、パススルーが適用され、二重課税を回避できる。任意組合の特徴は、出資者全員が無限責任を負担するという点である。

 

任意組合のメリットとして、投資対象に特段の制限がなく組合に対する監査も必要がないので、運用者にとっては扱いやすいという点が挙げられる。

 

投資事業有限責任組合

経産省が所管する「投資事業有限責任組合契約に関する法律」によって定められている「投資事業有限責任組合」は、PE組成において一般的によく使われる。こちらも組合型なので、パススルーが適用される。

 

最大の特徴は、一部の組合員が「有限責任組合員」になることが認められている点である。その代わり、有限責任のみを有する場合はファンド運営を行ってはいけない。よって、ファンドを運用する運用会社が無限責任組合員(GP)となり、投資家が有限責任組合員(LP)となる。

 

運用者にとって制約になるのは、出資額の50%以上を国内に投資しなければならないという点である。これは、この法律の基本思想が「国内企業に資金を供給する」ことを前提としているためである。よって、海外に投資するファンドを組成する場合は、投資事業有限責任組合によく似た海外籍のファンドである「リミテッド・パートナーシップ」が用いられる。

 

もっとも、海外投資家をもっと呼び込んで市場を活性化させる観点から、この「50%要件」の見直しを求める声は大きい。

 

(参考)幸田博人ほか(2020)『プライベート・エクイティ投資の実践 オープン・イノベーションが企業を変える』、中央経済社

ダイベストメントの問題点について

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「ESG投資」には様々な手法があるが、そのうちの一つに「ダイベストメント」というものがある。ダイベストメントとは、ESGの概念に反するような企業(例えば化石燃料や、兵器を扱う企業など)の投資を止め、資金を引き上げることである。

 

投資家が「ESGに積極的に取り組んでいる企業に投資する」のに合わせて、「ESGに取り組んでいない企業には投資しない」ことで、社会全体としてESGが促進されるという考え方があり、ダイベストメントは後者を指す。「ネガティブスクリーニング」と言われることもある。

 

企業にとっては、投資家が資金を引き上げてしまうと株価が下がり、資金調達が難しくなり想定していた企業活動に支障をきたす可能性がある。よって、ダイベストメントを多くの投資家が実践することによって、企業がESGに取り組むインセンティブが生まれるという考え方がある。

 

しかしながら、ダイベストメントには考慮しなければならない点もある。

 

第一に、「業種によって機械的にスクリーニングされてしまわないか」、という点である。

 

例えば格付け機関等が企業に付与するESGスコアに基づいて投資決定を行う際、構造的にCO2を多く排出してしまう産業の企業は、たとえできる範囲でどれだけESGの取り組みを進めても、スコアが低くなってしまう可能性がある。反対に、あまりエネルギーを消費しないITや人材といった産業の企業は、大した努力をしなくてもスコアが高くなりうる。

 

そうすると、CO2を構造的に多く排出してしまう産業というだけで、ESGに積極的に取り組む企業を機械的に排除してしまう可能性がある。

 

第二に、「ESGに取り組まない企業を放置することに繋がらないか」、という点である。たとえESGに関心のある投資家が資金を引き上げても、誰かは株を保有する。その企業は、ESGにうるさい株主がいなくなったので、逆にやりたい放題できてしまう可能性もある

 

あえてこうした企業の株を保有し、議決権行使によってESGの取り組みを促す、という手法を取ることも十分に考えられる。「放置すること」がESG推進のうえで最適解とは限らない。

 

(参考)日本経済新聞『「投資撤退」は万能なのか(一目均衡)』(2018年11月5日)