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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

バーゼル規制における「エクスポージャー」「所要自己資本」「リスクアセット」


バーゼル規制の自己資本比率規制においては、信用リスク、マーケットリスク、オペレーショナルリスクを計測し、そのリスク量に見合った自己資本を積むことが求められる。このリスク量算出にあたり、「エクスポージャー」、「リスクアセット」、「所要自己資本」といった言葉が登場するが、それぞれ何を指しているのか紛らわしい。以下、ざっくりとしたイメージをまとめてみたい(厳密な定義等は参考文献にあげた書籍などの資料を参照)。

 

エクスポージャー

価格変動のリスクに「さらされている 」資産を「エクスポージャー」と呼ぶ。

 

貸出であれば貸出額そのものがエクスポージャーどし、株などの他の資産は保有額そのものが価格変動のリスクにさらされているためエクスポージャーと呼ばれる。デリバティブは差金決済による取引であり、将来キャッシュフロー(勝ちポジション)がエクスポージャーとなる。

 

所要自己資本

各リスクに係る所要自己資本額が存在する(例えばマーケットリスクであれば、「マーケットリスク相当額」ともいう)。資本賦課額と言ったりもする。要するに、各リスクについてこれくらいは自己資本を積んどいてね、という額である。

 

各資産のエクスポージャーに、資産ごとに定められたリスクウェイトを掛け合わせることで、所要自己資本は求められる。また、金融機関ごとの内部モデルを通じて所要自己資本を求めることもある。

 

(信用リスクの標準的手法の場合は、エクスポージャーにリスクウェイトを掛け合わせると後述のリスクアセットとしてみなされる。)

 

リスクアセット(RWA)

各リスクのリスクアセット(Risk Weighted Assets)は、最終的に自己資本比率を算出する際に分母を構成する

 

リスクアセットは、所要自己資本×12.5で求められる。これは、言い換えれば、各リスクアセットの8%が所要自己資本であるということであり、各リスク資産についてそれぞれ一定の割合資本賦課することが必要であることを意味する。

 

要するに、リスク全体に対して一定の割合で自己資本を積むことを求める(これが自己資本比率)と同時に、各リスク(信用、マーケット、オペ)についても、そのリスク量に対して一定割合の自己資本が必要である、という考え方であろう。

 

語弊を恐れず極めて単純化すれば、よりプリミティブな概念から順に、

エクスポージャー→所要自己資本→リスクアセット

というイメージか。

 

(参考):

吉井一洋、金本悠希、小林章子、藤野大輝(2019)『詳説 バーゼル規制の実務 バーゼルⅢ最終化で変わる金融規制』

三井住友銀行バーゼルⅢに関する事項 用語説明

 

 

大口信用供与等規制とは何か

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本ページでは、大口信用供与等規制とは何かについてまとめたい。

 

規制の概要

大口信用供与等規制は、銀行をはじめとする金融機関が特定の主体に与信(貸出など)を集中させることを防止するための規制であり、銀行法によって規定されている。特定の主体(法人など)に与信が集中してしまうと、その主体が破綻したときに、金融機関の財務状況が一気に悪化してしまう。最悪の場合金融機関の破綻に繋がれば、その影響が連鎖的に金融システム全体に広がってしまう恐れがある。

 

資産運用において「分散投資」が必要だと言われるが、この規制はそれと同じようなイメージと言ってよいだろう。

 

具体的には、同一人に対する信用供与額は、自己資本総額の25%までと定められている。

 

バーゼル合意を踏まえた見直し

バーゼル銀行監督委員会が 14 年に公表した「大口エクスポージ ャーの計測と管理のための監督上の枠組」を踏まえて、大口信用供与等規制の見直しが2019年に行われた。その見直し内容は以下のとおりである。

 

(1)G- SIB1グループ間取引における信用供与等限度額

(2)基準自己資本の額

(3)銀行グループ内取引の取り扱い

(4)コールローンの取り扱い

(5)証券化商品等に係るルックスルーの取り扱い

(6)信用リスク削減手法への対応

(7)経済的相互依存関係

(8)追加的リスクファクター

(9)大口信用供与等規制に係る行政報告

 

それぞれの内容についての詳細な説明は、以下の資料を参考にされたい。

 

(出典): 

金融庁(2020)「大口信用供与等規制の見直しに関する要点解説 銀行グループ内取引を信用供与等の対象外に、証券化商品等に係るルックスルー の取り扱いを明確化」

経済学的観点からみた政府の意義とは?


本ページでは、経済学的な観点からみた政府の存在意義についてまとめたい。

 

一般に、政府の存在意義は以下の3つに整理される。

 

資源配分

一般に、資本主義経済の下では、資源配分は市場原理によって行われている。完全競争市場の下では、個人・企業の利己的な行動が、 結果的に市場における価格調整メカニズムによって、最適な資源配分が実現するという考え方である。

 

しかしながら、市場メカニズムが現実の経済で完全に働くことは中々難しい。例えば、

  • ある財の経済を1社が独占している場合、その企業が価格を決定できる力を持ってしまう
  • 本当は劣悪な(価値の低い)財であるのにもかかわらず、質の高い(価値が高い)財であるかのように見せかけて家計に供給する( 情報の非対称性)
  • 財の生産の過程で公害を発生させ、市場取引の外で家計の効用を下げる
  • 社会的に重要であるにも関わらず、市場メカニズムでは供給が十 分に行われない財が存在する

 

などが挙げられる。これらは、市場が適切に機能しない状況であり、「市場の失敗」という。

 

現実にはこうした市場の失敗はいたるところで起きており、これを是正し、適正な資源配分を実現することが主要な政府の役割であると考えられる。

 

所得再分配

資本主義経済の下では、所得格差・富の格差が大きくなっていく懸念がある。この格差をどの程度容認するかについて、各国政府の方針は多かれ少なかれ異なるし、政治思想によっても考え方は異なる 。ただ、一定程度格差を是正する必要があるとの立場に立てば、政府の役割は非常に重要である。

 

具体的には、高所得者や資産を多く持つものから多く税金を取り、 それを社会的弱者に公的なサービスとして還元することで、所得の再分配が可能となる。


経済安定化機能

不況などの経済的なショックや、金融危機が生じたとき、一時的に 多くの失業者が発生して、人々の暮らしが苦しくなることが予想される。
市場原理にこの回復を委ねるべきという考え方もあるかもしれないが、回復までには多大な時間を要する可能性がある。
したがって、経済の大きな落ち込み(または反対に経済の過度な加 熱)を是正を通じて、国民の生活の安定を目指すことは政府の重要な役割の一つとして考えられている。

 

(参考):

持田信樹(2009)「財政学」東京大学出版会

土居丈朗(2018)「公共経済学」日本評論社

カウンターパーティリスクの削減方法について

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本ページでは、カウンターパーティリスクの管理において、リスクをどのように削減したらよいか、その代表的な手法についてまとめたい。

 

カウンターパーティリスクとは

店頭デリバティブで取り扱うスワップ取引においては、取引相手が契約通りに支払いを行うことが前提となるスワップとは“交換”を意味するのだから、当然相手から貰うべきものを貰わなければ、“交換”は成立しない)。しかし、取引相手の財務状況が苦しく、契約通りに支払いができない可能性があり、それによって損を被る恐れがある。これこそがカウンターパーティリスクであり、取引相手の信用リスクということもできる。

 

カウンターパーティリスクについては以下を参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

ヘッジ

カウンターパーティリスクを削減する代表的な方法はヘッジ取引を行うことである。

カウンターパーティの信用リスクに対するヘッジは、CDSを用いることが一般的である。

 

CDSは、簡単に言えば、取引先企業や保有している社債国債の発行者等の破綻や支払い不能といったリスク(信用リスク)に対して、補償(プロテクション)を受けられるという金融商品で、クレジット・デリバティブ商品の一種である。

 

ある当事者(プロテクションの買い手) が別の当事者(プロテクションの売り手)に対してプレミアムと呼ばれる費用を支払う代わりに、対象となる企業や国(参照組織)の、倒産やデフォルト、不払い等のクレジット・イベントが発生した場合に、損失の補償を受けることができるというものだ。

 

CDSの最も典型的な特徴は、信用リスクをプロテクションの売り手(上の例では金融機関C)に移転することができる点である。現物である債券やローンを移転しないまま、リスクだけをプロテクションの売り手に移転できるのは特筆に値する。

 

カウンターパーティのデフォルト時に補償してくれるCDSを購入することで、ヘッジが可能となる。

CDSについては、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

CCPの利用

取引を当事者間で終始するのではなく、中心に清算機関(Central Counter Party, CCP)を置き、直接的なお金のやり取りを取引参加者と清算機関の間で行うことで、清算機関がカウンターパーティリスクを吸収することが期待される。これによって、たとえある取引参加者が破綻しても、その影響を清算機関が吸収し、他の取引参加者に連鎖しないようにすることができる。

 

店頭デリバティブは、取引所を介さずに当事者間で行われる取引であるため、その実態・全体像が見えにくいことが特徴である。一方で、このカウンターパーティリスクが顕在化し、実際に取引相手からの支払いが受けられなくなった際、例えばこの返済をもって別のデリバティブ取引における支払いに充てようと考えていた金融機関がいるとすると、この支払いも滞ってしまうということになる。このように、一つのカウンターパーティリスクの顕在化が、他の取引参加者(典型的には金融機関)にも連鎖して広がっていくことで、金融システム全体に影響が広がる可能性がある。

こうしたことから、金融商品取引法第156条の62では、「店頭デリバティブ取引その他の取引のうち、取引高その他の取引の状況に照らして、その取引に基づく債務の不履行が我が国の資本市場に重大な影響を及ぼすおそれがあるものであつて、その特性にかんがみ、我が国において清算する必要があるものとして内閣府令で定める取引」においては、清算機関に自己及び相手方の債務を清算機関に負担させることを義務付けている(清算集中義務)。

日本では、日本証券クリアリング機構がこの業務を担っている。

担保

CCPを利用しない場合でも、カウンターパーティとの担保の授受を行うことで、リスクを低減させることができる。

 

規制上、CCPを介さないデリバティブ取引を行う場合には、取引参加者間で証拠金を授受することを求める証拠金規制の導入が2011年のG20サミットで合意された。日本では、この証拠金規制について、金融商品取引業等に関する内閣府令と、金融庁の監督指針で規定している。

 

具体的には、当初証拠金(IM, Initial Margin)と変動証拠金(VM, Variation Margin)の2種類がある。

 

AとBがデリバティブ取引を行っているとして、現時点でAがプラスのポジション(取引終了時に損をせず収益を得られる)を持っていたとする。このとき、取引が確定する前にBが破綻してしまうと、得られたはずの利益を得られなくなってしまうので、その分の担保をBからあらかじめ受け取っておく。これが変動証拠金である。

 

しかし、Bが破綻した時点から、ポジション処理が完了するまでにはタイムラグがあり、マーケットの変動によりポジションのプラス分が大きくなる可能性がある。このため、この部分の担保としてBから受け取るのが当初証拠金である。当初証拠金の算出にあたっては、数理モデルを用いて推計を行う必要がある。

 

ネッティング

ネッティングとは一言でいえば、取引相手との複数の債務・債権関係を相殺し、最終的に残った差額のみの授受を行うことである。

 

例えば、AとBが3つの取引を行っていて、各取引におけるそれぞれのエクスポージャーが①A: +10 B: -10 ②A: -15 B: +15 ③A: +20 B: -20であったとする。各取引のプラスマイナスを相殺すると、A:+15 B: -15 となる。よって、BからAに15を支払うことによって、一連の取引の清算を完了させる。

 

これらのネッティングの法的な有効性を担保するのが、ISDA( International Swaps and Derivatives Association)という国際組織である。ISDAは、デリバティブ市場の活性化を目的とし、契約書類等の制定などを行っており、日本を含めた世界各地に拠点がある。このISDAが作成する「ISDAマスター」に基づく契約を取引当事者間で締結し、その中に含まれるネッティングに関する条項により、取引に際してのネッティングが法的に有効であると認められる。日本では、ISDAマスターを締結していることにより、「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」(一括清算法)に基づき、ネッティングの法的有効性が担保される。

 

ネッティングが法的に有効であることが認められることにより、取引を行う金融機関にとっては規制対応上のメリットがある。具体的には、リスク資産に対して一定の自己資本を求めるバーゼル規制において、デリバティブエクスポージャーのネッティング(つまりプラスのエクスポージャーとマイナスのエクスポージャーの相殺)が認められることで、規制上リスク資産と認定される額を一定程度削減することが期待できる。

 

 

 

(参考):

富安弘毅(2014)「カウンターパーティリスクマネジメント第2版」

三菱UFJ銀行(2014)「デリバティブ取引のすべて 変貌する市場への対応」

仕組債の手数料は高い?

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本ページでは、仕組債の手数料についてまとめたい。仕組債とは、一言でいえば、債券にスワップやオプションなどのデリバティブの要素を加えたものである。

 

仕組債の代表的な商品である「EB債」について、以下のページで紹介しているので、仕組債のイメージを掴みたい方はこちらを参考にされたい。

EB債とは何か - 金融アトラス

 

仕組債の構造

まず、仕組債にはどのような「仕組み」が組み込まれているかというと、デリバティブの一種であるプットオプションである。

 

プットオプションを含めたオプション取引の概要は以下のページにまとめている。

 

端的に言えば、投資家は仕組債購入時に、額面の支払いに加えて、プットオプションの売却を行なっているということになる。

 

プットオプションとは、「売ることができる権利」であった。そして、

プットオプションの売り手=売ることができる権利の売り手

→買う義務がある(買い手が権利行使した場合)

 

と整理できる。プットオプションの買い手は、市場の株価が安い時に、それよりも高い価格で売って儲けようとしている。その基準となるのが「権利行使価格」となる。権利行使価格よりも市場の株価が下回れば、プットオプションの買い手は権利を行使して権利行使価格で株式を売る。プットオプションの売り手は、それに応じなければならない(買う義務)。仕組債の中でもEB債において、対象株式が一定価格を下回るときに株式の形で償還されるのは、投資家側がプットオプションの売り手であり、株式を買う義務が生じたためである。

 

そして、プットオプション(売る権利)の売り手の損益について考える。

買う義務に基づき、権利行使価格で買って現物価格で売るので、満期において、

「現物価格―権利行使価格+プレミアム価格」が損益になる。

 

権利行使価格<現物価格の場合、買い手は権利を行使しないので、利益の上限はプレミアム価格(プレミアム)になる。逆に、現物価格が下がれば、それだけ損失は拡大し続けることになる。

 

仕組債券は、まさに上記のようなプットオプションの仕組みを組み込んだ債券といえる。

 

仕組債の手数料について

前置きが長くなったが、仕組債の手数料はどのようになっているのだろうか。

 

仕組み債は通常、購入単価のみの支払いでよく、一見すると手数料が無いように感じられる。しかし、"実質的な手数料"が存在することに注意しなければならない。

 

仕組債は、リスクがある代わりに通常の債券よりも高い利回りが期待できる商品だが、この一見高水準の金利の原資は、上記で説明したオプションのプレミアムである。仕組債を組成する金融機関がプットオプションを売り、そこから得たプレミアムを、投資家への金利の支払いに充てる。

 

しかしながら、このプレミアムは仕組債の投資家が受け取る額より高くなっている。その差額(サヤ)は、金融機関の儲けになるのだが、サヤがあまりにも大きく、投資家にとって不利な条件になっているのでは、という声がある。

 

金融市場におけるプレミアムは、リスクに対する対価として受け取るものである。リスクが高ければ、それに見合った高いプレミアムを受け取ることが金融市場における原則である。仕組債においては、リスクは全て投資家が負っている。プットオプションで生じる損失は、投資家に元本棄損という形で転嫁されるからだ。にも関わらず、金融機関が本来投資家が受け取るべきプレミアムの相当部分を中抜きしているのではないか、という懸念がある。

 

さらに、もう一つの観点として、債券の金利は、その発行体の信用リスクに見合った水準となっている。信用力の低い発光体の債券は利率が高く、 「ハイイールド債」と呼ばれる。しかし、仕組債の場合、発行帯である金融機関の信用リスクに見合った金利が設定されていないのではないかということが言われている。つまり、本当は2%分金融機関の信用リスク対する対価として上乗せしなければならないところ、1%分しかない、といった具合である。

 

このように、オプションプレミアム、信用リスク部分でサヤをそれぞれ抜かれると、"実質的な手数料"は相当高くなることとなる。

 

個人投資家にとってはこうした仕組債の実態が分かりにくく、必要以上にコストが高くなっている場合があるので、注意が必要となる。

 

(参考):

仕組み債、実質手数料高く――利回り、リスクに見合わず(増やす&得する)」2022/02/05  日本経済新聞

 

 

 

 

債券のデュレーションとは何か―割引債の場合

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本ページでは、債券(ここでは割引債)のデュレーションとは何かについてまとめたい。

 

割引債と利付債

債券は割引債と利付債に大別される。額面金額から割り引かれた価格で発行され、期中は利子(クーポン)の支払いがなく、償還時に額面金額が支払われる債券である。利付債は、定期的にクーポンが支払われる債券である。

 

以下では、割引債のデュレーションについて記述したい。(利付債のデュレーションの考え方はやや複雑である。)

 

デュレーションの概要

デュレーションとは、「利回りが1%増加したときに債券価格が何%変化するか」を示す指標である。より堅い表現で言えば、「金利変動に対する債券価格の感応度」と言うことができる。

 

そして、割引債の場合、このデュレーションと、債券の残存年数(償還までの年数)は一致することが知られている。残存年数は言い換えれば、元本の回収まで要する期間と言うこともできる。以下では、割引債の具体的な数値例を基に、なぜ両者が一致するのか検証してみたい。

 

具体例

以下のような割引債があったとする。

額面:100円

残存年数:1年

債券価格:95円

95円投資して3年後に額面の100円が戻ってくるので、100/95≒5.2%・・・①

が最終利回り(年率)である。

 

ここで、利回りが6.2%になった(つまり1%上昇した)とき、債券価格はどれだけ変動するだろうか。

 

額面(1年後戻ってくる額)は100円で固定なので、

100/x ≒6.2%・・・② 

のxが変動後の債券価格となる。

ここで、①と②式を見比べてみる。右辺が1%上昇しているから、左辺も1%上昇しなければならない。左辺が1%上昇するには、分子の100が固定なら、分母のxが①左辺の分母である95より1%小さくなければならない。

 

よって、デュレーションは1であり、すなわち「利回りが1%上昇したとき、債券価格は1%減少する」ということが分かる。

 

ここで、利回りは年率ベースであるから、年率利回り1%の上昇は、残存期間2年であれば最終利回り2%、3年であれば3%の上昇を意味する※。

 

(※厳密には年率利回りを残存期間で換算するときは年率利回りを累乗するので(例えば3年であれば年率利回りの3乗)、単純な正比例の関係にはないが、変動幅がそれほど大きく無い範囲においては両者は近似できると考えることができる。)

 

そうすると、結局、残存年数分だけ利回りを上げようとすると、同じ割合だけ債券価格を下げる必要が出てくる。

 

よって、割引債の場合、残存年数(元本回収までの期間)と、金利に対する債券価格の感応度は等しくなり、これらをデュレーションと呼んでいる(しばしばデュレーションには2つの側面があると説明される)。つまり、残存年数が長いほど、金利に対する価格の感応度は大きくなる

 

クーポンを伴う利付債の場合はデュレーションの導出は少し複雑になる。

 

厳密な数式等については以下の文献等を参考にされたい。

 

(参考):

服部 孝洋(2020)「金利リスク入門
デュレーション・DV01 (デルタ、BPV)を中心に―」財務総合政策研究所

根岸康夫(2006)「現代ポートフォリオ理論講義」

 

 

債券の「額面金額」とは?発行価格との違いは?

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本ページでは、債券における「額面金額」とは何かについてまとめたい。

 

額面金額とは、一言でいえば、「債券が償還期限を迎えた時に受け取ることのできる金額」ということができる。

 

また、利付債(償還まで一定の期間ごとにクーポンが支払われる債券)の場合、クーポンの金額は額面金額に一定の率を乗じた額となる。債券を投資することによって受け取れるのは、期中のクーポンと、償還時の額面金額である。

 

購入金額と額面金額は必ずしも同じではない

この額面金額は、購入金額と混同されることが多いが、両者は必ずしも一致しない。

 

債券の発行価格は、例えば「額面金額100円当たり105円」といった形で提示される。この債券の額面金額が100万円であるとき、投資家は100万円×105=105万円を用意する必要がある。

 

105万円の購入金額と引き換えに、「償還時に100万円の額面金額と、期中に額面金額の一定割合のクーポンを受け取れる権利」を得ることになる。

 

債券の利回りとクーポン

投資家から見た利回りも、クーポンと混同されることが多いが、区別して考える必要がある。

 

利回りは、投資金額に対してどれほど収益をあげたか、を意味する。

 

それに対してクーポン(利率)は、額面金額に対して定期的に受け取る利子の割合を意味する。

 

具体例として以下のような債券を考えてみたい。

額面:100万円

発行価格:100円あたり105円

残存期間:3年

クーポン:年率3%

この債券に投資したことによる投資家の支出と収入についてそれぞれ見ていく。

 

支出: 100万円×105/100=105万円

収入: (100万円×3%)×3 + 100万円=109万円

 

収入について、最初の項はクーポンによる収入を示す。残存期間が3年のため、3回クーポンを受け取る。次の項は、償還時に受け渡される額面金額を示している。

 

よって、利回り(投資額に対する収益の割合)は、以下の通りである。

 

109/105≒1.038 ∴ 3.8%

 

これは、3年間の最終的な利回りであり、通常この利回りを年率換算して表現することが一般的である。

 

以上の例からも分かる通り、クーポンはあくまで期中に受け取れる利子を意味しており、利回りは最終的に投資家が回収できるリターンである。

 

 

(参考):

額面金額|投資の時間|日本証券業協会

利率と利回りの違いって何?|投資の時間|日本証券業協会

根岸康夫(2006)「現代ポートフォリオ理論講義」