<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

カウンターパーティリスクの削減方法について

f:id:hongoh:20210316221906j:plain



本ページでは、カウンターパーティリスクの管理において、リスクをどのように削減したらよいか、その代表的な手法についてまとめたい。

 

カウンターパーティリスクとは

店頭デリバティブで取り扱うスワップ取引においては、取引相手が契約通りに支払いを行うことが前提となるスワップとは“交換”を意味するのだから、当然相手から貰うべきものを貰わなければ、“交換”は成立しない)。しかし、取引相手の財務状況が苦しく、契約通りに支払いができない可能性があり、それによって損を被る恐れがある。これこそがカウンターパーティリスクであり、取引相手の信用リスクということもできる。

 

カウンターパーティリスクについては以下を参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

ヘッジ

カウンターパーティリスクを削減する代表的な方法はヘッジ取引を行うことである。

カウンターパーティの信用リスクに対するヘッジは、CDSを用いることが一般的である。

 

CDSは、簡単に言えば、取引先企業や保有している社債国債の発行者等の破綻や支払い不能といったリスク(信用リスク)に対して、補償(プロテクション)を受けられるという金融商品で、クレジット・デリバティブ商品の一種である。

 

ある当事者(プロテクションの買い手) が別の当事者(プロテクションの売り手)に対してプレミアムと呼ばれる費用を支払う代わりに、対象となる企業や国(参照組織)の、倒産やデフォルト、不払い等のクレジット・イベントが発生した場合に、損失の補償を受けることができるというものだ。

 

CDSの最も典型的な特徴は、信用リスクをプロテクションの売り手(上の例では金融機関C)に移転することができる点である。現物である債券やローンを移転しないまま、リスクだけをプロテクションの売り手に移転できるのは特筆に値する。

 

カウンターパーティのデフォルト時に補償してくれるCDSを購入することで、ヘッジが可能となる。

CDSについては、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

CCPの利用

取引を当事者間で終始するのではなく、中心に清算機関(Central Counter Party, CCP)を置き、直接的なお金のやり取りを取引参加者と清算機関の間で行うことで、清算機関がカウンターパーティリスクを吸収することが期待される。これによって、たとえある取引参加者が破綻しても、その影響を清算機関が吸収し、他の取引参加者に連鎖しないようにすることができる。

 

店頭デリバティブは、取引所を介さずに当事者間で行われる取引であるため、その実態・全体像が見えにくいことが特徴である。一方で、このカウンターパーティリスクが顕在化し、実際に取引相手からの支払いが受けられなくなった際、例えばこの返済をもって別のデリバティブ取引における支払いに充てようと考えていた金融機関がいるとすると、この支払いも滞ってしまうということになる。このように、一つのカウンターパーティリスクの顕在化が、他の取引参加者(典型的には金融機関)にも連鎖して広がっていくことで、金融システム全体に影響が広がる可能性がある。

こうしたことから、金融商品取引法第156条の62では、「店頭デリバティブ取引その他の取引のうち、取引高その他の取引の状況に照らして、その取引に基づく債務の不履行が我が国の資本市場に重大な影響を及ぼすおそれがあるものであつて、その特性にかんがみ、我が国において清算する必要があるものとして内閣府令で定める取引」においては、清算機関に自己及び相手方の債務を清算機関に負担させることを義務付けている(清算集中義務)。

日本では、日本証券クリアリング機構がこの業務を担っている。

担保

CCPを利用しない場合でも、カウンターパーティとの担保の授受を行うことで、リスクを低減させることができる。

 

規制上、CCPを介さないデリバティブ取引を行う場合には、取引参加者間で証拠金を授受することを求める証拠金規制の導入が2011年のG20サミットで合意された。日本では、この証拠金規制について、金融商品取引業等に関する内閣府令と、金融庁の監督指針で規定している。

 

具体的には、当初証拠金(IM, Initial Margin)と変動証拠金(VM, Variation Margin)の2種類がある。

 

AとBがデリバティブ取引を行っているとして、現時点でAがプラスのポジション(取引終了時に損をせず収益を得られる)を持っていたとする。このとき、取引が確定する前にBが破綻してしまうと、得られたはずの利益を得られなくなってしまうので、その分の担保をBからあらかじめ受け取っておく。これが変動証拠金である。

 

しかし、Bが破綻した時点から、ポジション処理が完了するまでにはタイムラグがあり、マーケットの変動によりポジションのプラス分が大きくなる可能性がある。このため、この部分の担保としてBから受け取るのが当初証拠金である。当初証拠金の算出にあたっては、数理モデルを用いて推計を行う必要がある。

 

ネッティング

ネッティングとは一言でいえば、取引相手との複数の債務・債権関係を相殺し、最終的に残った差額のみの授受を行うことである。

 

例えば、AとBが3つの取引を行っていて、各取引におけるそれぞれのエクスポージャーが①A: +10 B: -10 ②A: -15 B: +15 ③A: +20 B: -20であったとする。各取引のプラスマイナスを相殺すると、A:+15 B: -15 となる。よって、BからAに15を支払うことによって、一連の取引の清算を完了させる。

 

これらのネッティングの法的な有効性を担保するのが、ISDA( International Swaps and Derivatives Association)という国際組織である。ISDAは、デリバティブ市場の活性化を目的とし、契約書類等の制定などを行っており、日本を含めた世界各地に拠点がある。このISDAが作成する「ISDAマスター」に基づく契約を取引当事者間で締結し、その中に含まれるネッティングに関する条項により、取引に際してのネッティングが法的に有効であると認められる。日本では、ISDAマスターを締結していることにより、「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」(一括清算法)に基づき、ネッティングの法的有効性が担保される。

 

ネッティングが法的に有効であることが認められることにより、取引を行う金融機関にとっては規制対応上のメリットがある。具体的には、リスク資産に対して一定の自己資本を求めるバーゼル規制において、デリバティブエクスポージャーのネッティング(つまりプラスのエクスポージャーとマイナスのエクスポージャーの相殺)が認められることで、規制上リスク資産と認定される額を一定程度削減することが期待できる。

 

 

 

(参考):

富安弘毅(2014)「カウンターパーティリスクマネジメント第2版」

三菱UFJ銀行(2014)「デリバティブ取引のすべて 変貌する市場への対応」