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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

シンセティックCDOとは何か

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本ページでは、シンセティックCDO(Synthetic Collateralized Debt Obligation、合成債務担保証券)とは何かについてまとめたい。シンセティックCDOとは、一言でいえば「CDSを原資産にした証券化商品」ということになる。

よって、以下では、証券化CDSについて簡単に触れた後、シンセティックCDOの概要について説明する。

 

証券化とは

シンセティックCDOは「証券化商品」である。それでは、この「証券化」とは何を意味するのか。証券化は、一言でいえば「ある資産にたくさんの投資家が小口で投資できる仕組み」ということになる。

 

例えばある投資家がオフィスビルに投資して賃料等の収入を得たいと考えた時、この証券化の仕組みがなければ、投資家はビル一棟を丸々購入しなければならない。財力が十分にあれば可能かもしれないが、多くの投資家にとっては高額で、かつハイリスクである。

 

しかし、ビルの保有者が「ビルの賃料等の収入を得られる権利」を「証券」として発行して、多くの投資家に売却すれば、投資家は少ない金額でビルに投資をすることができる。

 

反対に、不動産やローンなどの資産を持っている会社がこの「証券化」を行いたいと思う理由は、資産売却による「資金調達」と「リスク移転」ということができるだろう。

 

証券化については、以下のページにもまとめている。

hongoh.hatenablog.com

 

CDSとは

証券化を行うには当然ながら裏付けとなるものが必要である(上記の例では不動産)。シンセティックCDOは、その裏付けが「CDSクレジット・デフォルト・スワップ)」であるわけだが、ではこのCDSとは何なのか。

 

簡単に言えば、取引先企業保有している社債国債の発行者等の破綻や支払い不能といったリスク(信用リスク)に対して、補償(プロテクション)を受けられるという金融商品で、クレジット・デリバティブ商品の一種である。

 

ある当事者(プロテクションの買い手) が別の当事者(プロテクションの売り手)に対してプレミアムと呼ばれる費用を支払う代わりに、対象となる企業や国(参照組織)の、倒産やデフォルト、不払い等のクレジット・イベントが発生した場合に、損失の補償を受けることができると いうものだ。

 

CDSについては、以下のページに概念図とともに詳しくまとめているので、併せて参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

シンセティックCDOとは

前置きが長くなったが、シンセティックCDOは「CDSを裏付けとする証券化商品」ということになる。概念図を以下に示す。

 

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シンセティックCDO概念図

上図の赤枠がCDSを束ねた部分となる。図には「SPCが保有」と書いてあるが、これは通常、資産の保有者(「オリジネーター」という)がこの資産の証券化を専ら目的とする「SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)に資金を売却し、SPCが証券を発行して投資家に配る、という形をとる。

 

CDSにおいて、SPCは企業からプレミアムの支払いを受ける。反対に、参照企業のデフォルト等が発生した際には、SPCは企業に対して補償を与える(そして、これは投資家の損失という形で転嫁される)。

 

しかしながら、SPCは実態のないペーパーカンパニーであり、取引を行うには担保が必要である。そこで、シンセティックCDOの発行に際して投資家から払込を受けた資金で国債等の安全資産を購入し、担保とする。

 

そして、企業からのプレミアム支払いを元に、投資家に利払いが行われる

 

以上の取引は、投資家からすれば社債投資を行なっているのと同様の経済効果を持つと考えられる。社債投資においては、投資している社債の発行企業が破綻した場合は社債価格が下落して損失を被るが、その代わりに国債よりも高い利率で利子収入を得ることができる。上記のしくみもこれと同じ状況が再現されていると言える。これこそが「合成された債務担保証券」たる「シンセティックCDO」である。

 

社債に比べて一般的に利率が高いこと、社債に比べて対象企業が分散されやすいといったメリットがシンセティックCDOにはあり、2000年代に急拡大を見せたが、一度参照企業のデフォルト等が表面化すれば大きな損失を被るリスクもあり、リーマンショックの遠因になったとも言われている。

 

参考:田渕直也(2012)『入門実践金融証券化のすべて』日本実業出版社